ポートアクセス法が前向きに安全な場合
ポートアクセス法心臓手術は
MICS低侵襲心臓手術の代表的なものとして役立っていますが、
創が小さく見えにくいという美容上のものが主でした。
それらのメリットは患者さんの肉体的・精神的苦痛をやわらげ、
感染などの合併症の発生を減らし、
心臓手術という患者さんにとっての大きな試練を多少でも乗り越えやすくするという点で
間接的に安全性の向上にも貢献している位置づけと言えましょう。
しかしポートアクセス法は時には直接的に安全性を向上させることもあるのです。
その一例をお示しします。
大動脈弁下狭窄症(IHSS、ある種の閉塞型心筋症HOCM)と
巨大左房・慢性心房細動のため来院されました。
僧帽弁閉鎖不全症はIHSSのために二次的に引き起こされる要素と、
弁自体が壊れている要素の両方を持っていました。
僧帽弁形成術、そしてメイズ手術とくに心房縮小メイズ手術でした。
その場合は心臓へのアプローチが左房と上行大動脈の2か所となるため
胸骨正中切開を行う予定でした。
同じ型の血液でもアレルギー反応などを起こす抗体が発見されました。
ほとんどの血液に対して何らかの免疫アレルギー反応を起こす恐れがあり、
その反応の強さによっては命の危険もあるほどでした。
自己血をとろうにも、
その取った血液を保管するときに血栓が起こったりする恐れもあり
自己血さえ使えません。
つまりエホバの証人の信者さんの心臓手術のように、
無輸血で手術することが必須となったわけです。
小柄な女性なので体外循環の回路を血液で充填するだけでも血液が足りなくなる恐れがあるほど、
余裕のない状況でした。
図は赤血球を示します。
通常の胸骨正中切開(下図の左側)では
骨の断端からウージングというしみだすような出血が起こり、
これは完全に制御することが難しく、
血液が固まることに頼っているため、
この患者さんでは輸血が必要になる恐れが高い状況となりました。
そこでポートアクセス法で右胸を小さく切って(左図の右側)、
骨は全く切らず、手術しました。
極力短時間で、かつ確実に心臓の操作を完成させるよう、
弁は人工弁とし、
かつ異常心筋に弁が衝突しないよう、機械弁で安全を期しました。
機械弁であるならワーファリンをもちいるため、
心房縮小メイズもあえて取りやめとしました。
なお僧帽弁ごしに異常心筋はブロックを起こさない範囲で切除しました。
出血は術中術後をとおしてほとんどゼロで、
患者さんはすぐ元気になられ、
術翌朝には集中治療室を出て一般病棟に戻られました。
こうした患者さんではいったん輸血が必要となれば、
輸血→強いアレルギー反応とくにアナフィラキシー→ステロイドや厳しい血管収縮剤→全身状態の悪化から危険な状態となる懸念があります。
結果的にまったくスムースで何もなくきれいに治られたのですが、
それはポートアクセス法MICSをはじめとした慎重な方針のおかげと思います。
また平素からエホバの証人の患者さんの心臓手術から逃げずに、安全管理を徹底し、正面から取り組む姿勢がこうした難ケースで役に立つのです。
ともあれ、ポートアクセス法心臓手術は意外な場面でも前向きに役立つことがあるのです。
メモ: 私たちの経験ではポートアクセス手術での無輸血率はほぼ100%に達しています。
完全に100%でないのは、中には手術前から貧血が強く、そのための輸血が必要となったという特別なケースが含まれるからです。
この意味でもかなり有用な方法と言えましょう。
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