心臓弁膜症の恐ろしさ――こうしていのちを落としかねないのです
心臓弁膜症は昔の病気、そう怖くない病気という誤解がまだまだ多い、
そんな印象を最近ますます強く持つようになりました。
しかし心臓弁膜症のため命を落とす患者さんが全国的に少なくない、
これはデータが物語るところです。
心臓弁膜症の種類によってはある種のがんよりも
予後が悪いというデータもいくつもあります。
では心臓弁膜症はどんな時に怖い、あるいは危険なのでしょうか?
たとえば僧帽弁閉鎖不全症では、
弁が逆流するため次第に左心房(左房)や左心室(左室)に無理がかかります。
すると左房や左室が拡張つまり大きくなり、次第にパワーを落とします。
また左房が拡張するために心房細動などの不整脈が起こります。
その血栓がもし血液の流れに乗っかって脳へ流れれば脳梗塞となり、
いのちにかかわる大事態となりかねません。
野球の長嶋さんやサッカーのオシムさんのように。
僧帽弁閉鎖不全症そのものは軽症ならお薬で、
重症でも手術で治せますし、
心房細動もお薬やカテーテル治療(アブレーション)や手術(メイズ手術)でかなり治せます。
ワーファリンなどの抗凝固療法で脳梗塞などを予防することはできます。
私たちの心房縮小メイズ手術で根治できることも多いです。
しかし病気を放置して心臓がうんと弱ったり、
すでに重い脳梗塞を合併してからではせっかくの治療も効果がなかなか発揮できません。
患者さんにとって不幸な事態です。
同じ僧帽弁でも弁が狭くなる僧帽弁狭窄症ではどうでしょうか。
この病気も放置すると左房がいっそう強く拡張し、
心房細動と血液のよどみの両方のために血栓ができやすいのです。
その結果、脳梗塞などの大きな問題が起こります。
肺のうっ血のために重い肺炎などで命を落とすこともあります。
「動くと苦しい、しんどいが、じっとしてれば何とかなる」
と言わないで、
経験豊かな弁膜症の専門家に相談することです。
それを支援するために、
日米ヨーロッパのトップの学会がそれぞれガイドラインを作っています。
心臓がこれこれの状況になれば手術が患者さんの安全にとって有利とか、
これこれなら手術は不要、
お薬と定期健診で良い、などの位置づけがわかります。
ガイドラインも知らない医師がまだまだ多く、
さらにはガイドラインを無視するような困った先生も散見されます。
やはり心臓弁膜症は心臓弁膜症の専門家に聴くことです。
高齢者社会の中で近年増加している大動脈弁狭窄症ではどうでしょうか。
この病気の場合は重くなると突然死するという怖さがあります。
何しろ、心臓の出口の部分(大動脈弁)が閉ざされた状態になる病気ですから、
心臓も動けませんし、
万一のときに心臓マッサージ(CPR)して下さる方がおられても、そのマッサージが効きません。
しかしこの病気は比較的元気なうちに経験豊富なチームで手術すればほとんどの場合、
元気になれるのです。
つまりこの病気で油断して命を落とすのは大変もったいないことなのです。
この病気では運動時の息切れや、胸痛(胸の痛みや締め付け感)、
あるいは失神発作などが起こると1年以内に半数の方が亡くなることが知られています。
今なんともないから大丈夫、とは言えないのです。
同じ大動脈弁でも弁が逆流する大動脈弁閉鎖不全症でも同様です。
この病気では意外なほど症状が出ないケースが多く、
息切れや胸痛などが安静時にも出るようになると、
すでに心臓がうんと悪く大きく弱くなっていることさえあります。
その段階からでも私たちは心臓を立て直すように努力していますが、
心臓が悪すぎる、いゆわる拡張型心筋症の状態として
手術を拒否する病院も少なくありません。
これは私のところへ来られる患者さんたちが証言されているものです。
実は運動時、たとえば階段を登るときに以前より苦しくなっているのにそれをがまんしすぎて、
とことん心臓を傷めてから病院へ行くというのは、
やはり安全上、患者さんにとって損なこと、危険なことなのです。
僧帽弁や大動脈弁よりも目立たない弁と言われる三尖弁ではどうでしょうか。
たとえば三尖弁が逆流する三尖弁閉鎖不全症では
軽いうちはお薬などで十分なのですが、
重くなるとそうとは言えません。
とくに肝臓がうっ血し、
いわゆるうっ血性肝硬変などのように肝臓が悪くなってくると命にかかわる事態です。
こうなると手術を断る病院も多いです。
やはり早い時期から専門家と相談し、適切な治療を早めに行う、
なるべく予防することが患者さんにとって一番なのです。
このようにさまざまな心臓弁膜症に共通して、
今じっとしてれば何ともないから大丈夫などと考えずに、
定期健診や心臓弁膜症を熟知した専門家と相談して
的確な方針を立てることで
心臓弁膜症は怖くない病気になるのです。
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