心臓ペースメーカー: 偉大な発明、でも少しだけ注意を
心臓のなかにある自然のペースメーカーともいえる仕組みのおかげです。
これは洞房結節(自然のペースメーカーの本体)・
刺激伝導系(リード線)・
房室結節(中継局)などからできており、
右図にそれを示します。
その仕組みが病気や年齢その他の原因で壊れると、脈が遅くなることがあります。
いわゆる除脈です。
たとえば一分間に40以下になったり、
ときどきでも数秒間以上、脈が止まると問題が起こります。
心臓があまり動かなくなるため当然といえば当然ですが。
こうなると体を動かすとまもなく息切れが起こったり、疲れやすくなったり、
ひどい時には意識を失う失神発作が起こります。
そうなると二次的災害が心配になります。
たとえばクルマを運転中に失神発作を起こすとどうなるでしょうか。
あるいは駅のプラットフォームで電車を待っているときに失神発作をおこして線路に落ちるとどうなるでしょうか。
ということで治療が必要になります。
脈を速くするのは薬でもある程度はできますが、
副作用のためあまり良くありません。
この遅すぎる脈を安全に、人工的に早くしてくれるのが心臓ペースメーカーです。
ペースメーカーは電気の刺激を心臓に与えるため、
よく発電所のようにたとえられますが、
より正確に言えば、発電所のようにパワーを供給するのではなく、
心臓が動くスイッチを入れるだけなのです。
バーベキューなどに使うチャッカ(着火)マン、
あるいはたばこに火をつけるライターの火花の役割ですね。
クルマのエンジンの中にある点火プラグのような。
いったんスイッチが入れば、あとは心臓自体がもつエネルギーで心臓は動きます。
ペースメーカーによる治療が必要な除脈という病気の内訳にはつぎのようなものがあります。
心臓の自然の電気刺激そのものが十分発生しない洞不全症候群(略称SSS)や、
自然の電気刺激が心臓各部位に伝わる途中でとぎれてしまう房室ブロック、
あるいは心房細動などで脈が遅いタイプなどが代表的です。
写真右にペースメーカーとリード線の実物を示します。
また除脈頻脈症候群のように、脈が速すぎたり(頻脈)遅すぎたり(除脈)するタイプもペースメーカーの良い適応となることがあります。
脈が速すぎるのは通常、薬で治せるのですが、
この病気の場合は薬で頻脈を治すとちょうど良いスピードを通り越して除脈となり、
かといって薬の量を減らすと、またちょうど良いスピードを通り越して頻脈になるのです。
こうした病気ではペースメーカーで除脈の心配を解決し、
そのうえで頻脈を薬できちんと、悠々と治せるわけです。
ペースメーカーの植え込みは、一般の心臓手術よりはずっと簡単です。
大掛かりな全身麻酔は必要なく、小さな注射による局所麻酔で左胸などの皮膚に小さい創をつけ、
ここからリード線を心臓のしかるべき部位に送り、
創の奥に小さいポケットを造ってペースメーカー本体を入れ、
さきほどのリード線と連結します。
これを通じて電気刺激、着火の刺激をするのです。
あとは体の外から磁石による調整で、ペースメーカーの作動速度その他の調整は皮膚を切らずに自由にできます。
かつてペースメーカーを入れたら携帯電話が使えなくなるなどの話が広がり、
多くの患者さんたちの心配の種になっていました。
現在はこうした心配はほとんどなく、
携帯電話もよほどペースメーカーにつけるほど近づけなければ問題ありません。
22cm以上離しましょうという勧告があったのは1990年代のデータに基づくもので、
現在はよほどくっつけなければ大丈夫です。
安心と安全のために、私は次のようにおすすめしています。
左胸にペースメーカーが入っている方の場合は、
左胸のポケットに携帯電話をいれないように、
そして、心配性の方には携帯電話はペースメーカーの反対側の耳に当てて使って下さい、と。
簡単にできる安全策です。
患者さんご自身でできる健診もあります。
それはご自身で脈をとることです。
その脈拍のスピードがペースメーカーの設定速度とほぼ同じであればOKです。
設定速度とあきらかに違うときにはすぐ外来へご相談下さい。
ペースメーカーは昔は大きく、それこそ弁当のおかず箱ぐらい大きかった時代もありますが、
現在は手の平に小さく乗る、20-60gのかわいいサイズです。
タイプもさまざまあり、脈拍が遅くなったときだけ作動するタイプ、
体の動きや呼吸、体温をキャッチして作動するタイプその他があり、
その患者さんの状態やニーズに合わせて最適なものを選びます。
なおペースメーカーのなかに、両室ペーシング(略称CRT)というのがあります。
これは通常のペースメーカーとは異なり、心不全におちいった心臓の動きを調整してパワーアップを図るものです。
またそれに加えて、危険な不整脈が発生したら、自動的に電気ショックを内側からかけるICD機能を兼備したCRT-DもこのCRTのひとつです。
これらは一般のペースメーカーとは異なるものです。
ペースメーカーはある意味、もっとも安全に、もっとも確実に行える除脈の治療法です。
除脈でお困りの方は専門医にご相談されることを勧めます。
なおペースメーカーによって、まれに起こる病気があります。
この場合は専門医にご相談下さい。
程度が軽ければそのままか、お薬で良いのですが、重くても相応の治療で治せます。
もし手術が必要になってもミックス手術(MICS手術)で小さな創で治せることが多く、
早い社会復帰が望めます。
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