ポートアクセス法・心臓手術――大きな創(きず)は過去のものに?
体の表面つまり皮膚に小さな穴を開けて、
そこから柄の長い手術器具をもちいておこなう心臓手術です。
いわゆるミックス手術(MICS、低侵襲心臓手術)のひとつです。
もともとポートアクセス法・心臓手術はハートポートという商品名の体外循環のセットを用いての手術という意味で使われていたような印象があります。
私が1990年代にアメリカ・カリフォルニアのスタンフォード大学に留学していたころ、
ジョン・スティブンスという若い心臓外科の先生がこのハートポートを研究開発しておられました。
動物実験第一例目がうまく行ったとき、皆で喜び合ったのを覚えています。
当初は美容上のメリットつまり創が小さく見えにくいというメリットから開発が進んだように思いますが、
実際に患者さんでの使用が始まり、
同じ体外循環を使っても患者さんの回復が速いことが明らかになりました。
そこでポートアクセス心臓手術は
患者さんにやさしい低侵襲手術という認識が次第に確立して行ったのです。
私たちも名古屋ハートセンターでこのポートアクセス法・心臓手術を積極的に行っており、
僧帽弁形成術、僧帽弁置換術、大動脈弁置換術、大動脈弁形成術、心房細動に対するメイズ手術、三尖弁形成術などにもちいています。
また心房中隔欠損症(ASD)などの先天性心疾患などもポートアクセス法が使えます。
左の写真はポートアクセス法による僧帽弁形成術の術後4日目、右の写真は術後1か月半での創を示します。
素早い社会復帰がうなづける創の治り具合です。
患者さんのご意見を総合すれば
やはり従来の胸骨正中切開(胸の真ん中にある骨を縦に切り、心臓を治したあとでまたもとどおりつなぎます)より痛みも苦痛も少なく、
仕事などの社会復帰が早く、さらに輸血量も少ないことが明らかになって来ました。
ただしこのポートアクセス法には弱点や限界もあります。
それは体外循環つまり手術中心臓を肩代わりする器械を使うときに、血液を体に送る管を入れるのですが、
通常は上行大動脈に入れるものをポートアクセス法では下肢の付け根にある大腿動脈から入れるのです。
そこで大腿動脈や大動脈に動脈硬化がないひとに限定されるのです。
逆に、動脈硬化がないかごく軽ければ、
比較的高齢者の患者さんでもポートアクセス法が使えるとも申せましょう。
さらに、皮膚切開を多少大きくして通常の上行大動脈送血でポートアクセス手術することもあります。
ついで快適性、早い社会復帰、美容上のメリットなどを順々に確保していくことと思います。
工夫を重ねた結果、皮膚切開は約6㎝前後になってきていますが、
これ以上皮膚の創を小さくする努力よりは、
手術の安全性や質をより高める努力、
あるいはより複雑な手術をポートアクセス法で行う努力により力をいれています。
ダビンチ・ロボット手術の導入も検討していますが、
患者さんの負担がかなり高額になる割にはメリットが少ないこと、
体外循環時間が短縮されるとは限らないこと、
大きな機械のメンテナンスが大変で人件費がかかること、
さらには日本全体の医療経済から考えてもメリットに疑問が多く出されていることから、
現時点ではロボットは研究段階の治療法と考えています。
今後の展開を待ちたいところです。
ロボットを使わないポートアクセス法・心臓手術なら
医療費のほとんどが保険から出され患者さんの負担はわずかです。
高額医療が結局は国民つまり患者さんの負担としてのしかかってくることを皆で考え、
より適切な道を選ぶべき時代になっていると思います。
メモ: よく聞かれるご質問: ろっ骨とろっ骨の間を小さく切るポートアクセス法では、その場所に肋間神経があるため、手術後の痛みが大きいのではないですか?
お答え: ただ肋間を切るだけでは痛みは強いです。そこで手術の際に肋間神経ブロックを行い、神経を一時的にマヒさせるようにしています。
それによって多くの患者さんたちで痛みはやわらぎます。少しピリピリする感じで痛くありませんとおっしゃる方も少なくありません。数週間たてば神経の間隔はもどってきます。
お問い合わせはこちらへどうぞ
弁膜症のトップページにもどる



コメント