バーロー症候群(Barlow's syndrome)―形成できないというのは昔話?
バーロー症候群(Barlow's syndrome)は欧米にはよく見られる僧帽弁の病気で、
人口の1-6%に発生するというデータもあり遺伝的要素のある疾患です。
故バーロー先生が初めて記載され、その名が残っています。
別名フロッピー弁症候群(floppy-valve syndrome、弱い弁という意味)とか膨らんだ僧帽弁症候群(Billowing mitral valve syndrome)などともいうように、
きれいに閉じなくなった状態を指します。
左図の上がバーロー症候群の僧帽弁で前尖がもこもこと瘤化し変化していることがわかります。
左図の下が一般的な後尖逸脱のある僧帽弁で弁そのものの変化は軽いです。
著者は北米や豪州でこのバーロー症候群の手術を多数経験しましたが、
近年は日本でも増えている印象があります(バーロー症候群の手術事例1)。
あるいはリウマチ性弁膜症などで多く見られる傾向があります。
弁の逆流が増えるにしたがって次第に動悸や倦怠感、めまい、息切れ、胸痛(狭心症とは違う形の)、偏頭痛などがあります。
バーロー症候群(Barlow's syndrome)では僧帽弁の弁尖がしばしば2つとも左房へ落ち込み弁の逆流(僧帽弁閉鎖不全症)が発生します。
その原因として考えられるのは、組織が変性し、弁尖が伸びてしまうことで、
その組織変性は他の変性性の病気と関連していると考えられています。
バーロー症候群の患者さんの25%では関節の異常や高いアーチ状の口蓋、
あるいは側彎やろうと胸、などの骨格の異常などが見られます。
診断は心エコーにてつきます。
僧帽弁の弁尖の位置や形、かみ合わせ具合等でわかりますし、
僧帽弁閉鎖不全症としての重症度ももちろんわかります。
中等度から高度の僧帽弁閉鎖不全症になると、
突然死や心房細動、腱索断裂、心不全、
あるいは感染性心内膜炎への注意が必要となります。
こうなると手術が必要となり、それによって突然死が防げます。
とくに胸痛や易疲労感、めまいなどを感じたら要注意です。
(参考:僧帽弁閉鎖不全症の治療ガイドライン)
手術では弁葉そのものが比較的柔らかいため、僧帽弁形成術が可能です。
ただし前尖・後尖含めた弁の大半を修復する必要がしばしばあり、
熟練したチームでのみ形成可能です。
たとえば前尖の大半が逸脱していることも多く、
しかもその前尖がしばしば瘤化しています。
そうなると前尖を適切に切除し、
さらに人工腱索を多数立てて適切なかみ合わせを再現する必要があります。
私たちの経験では12本前後の人工腱索を前尖に立てればきれいにかみ合うようになります
(手術事例)。
さらに難しいのは、後尖も壊れていることが多く、
そちらも三角切除や人工腱索などで再建する必要があります。
つまり前尖の人工腱索の長さ決定の通常の指標としている後尖の位置そのものがずれているため、
前尖・後尖とも新たに造りなおすような工夫が求められるわけです。
弁が瘤化しているため背丈も高く、SAM(前尖が前方に移動して左室の出口をふさぎ問題となります)対策も必要です。
人工腱索の2-4本も短時間で確実に立てられないチームでは
バーロー症候群の僧帽弁形成術が困難というのはそうした要求の多い手術だからです。
しかしいったんきれいに弁形成術ができると、長期予後は良好です。
これは弁輪にリングをつけて弁全体をガードし、
腱索もしっかりした人工腱索で置き換わることと、
前尖後尖のかみ合わせが良好になれば弁葉に対するストレスが大きく軽減されるからです。
バーロー症候群と言われた僧帽弁閉鎖不全症の患者さんにおかれましては、
病気を無用に恐れることなく、また油断することもなく、
しっかり正面から向き合って治す、これがお勧めできる方針です。
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