左室瘤の手術について―古くて新しい手術?パワーアップを
左室瘤は心筋梗塞のために左室の壁一部が死んで薄くなった状態です。
右図は虚血性心筋症の発生のしくみを示しますが、
左室瘤ではこれがより局所的に起こり、左室全体への影響は少なくなります。
つまり左室の良いところと悪いところがはっきりと分かれるのです。
心筋梗塞後の機械的合併症のひとつとして知られています。
左室瘤の薄いところは心筋(心臓の筋肉)が死んでおりパワーがないため、
瘤が大きくなると心臓全体にも悪影響が及び、心不全が発生します。
また左室瘤の部分では血流がよどむため血栓ができやすくなり、
それがもし外れて血流に乗って他の臓器へ流れると大問題になってしまいます。
たとえば脳へ飛べば脳梗塞になります。
また心筋梗塞を生き残った心筋細胞で障害を受けた細胞が危険な不整脈を発生するときも注意が必要です。
左室瘤が小さいときにはこうした問題が起こりにくいため、
ていねいな経過観察で良いのですが、
瘤が大きいときには、心不全や今にも飛びそうな危険な血栓があるとき、
あるいは治療しづらい危険な不整脈があるときには手術の適応となります。
左室瘤の手術は熟練した心臓外科医のチームなら比較的安全に行えます。
そして必要に応じて僧帽弁形成術や不整脈手術などが行われます。
左室瘤は虚血性心筋症とはちがう病気ですが、
時間経過とともに紛らわしいこともあります。
それは瘤が大きくて心不全が起こり、瘤でない左室部分まで悪くなることが多々あるからです。
虚血性心筋症では左室全体が悪くなり、動きが低下しますので結果的に良く似た状態となることがあります。
そうした場合、心筋がどれだけ生きているかのMRI検査を行ったり、
手術によってある程度以上回復する、つまり切除するほど悪くない左室壁はなるべく温存し、
その部位には必要に応じてバイパスをつけて少しでも回復するようにします。
梗塞を起こした左室部分が左室全体の足を引っ張っていることが明らかとなれば、
それを左室形成術で修復すると、
手術後の心臓のパワーアップが図れます。
左室形成術としてはその部位と状態に応じてドール手術、セーブ手術、オーバーラップ手術などを用います。
ここで大切なのは、たとえばドール手術ならどのチームで行っても同じドール手術というのではなく、
適切な形とサイズで左室を再建できるかどうかによって、
手術の安全性や手術後の心機能が大きく変わるということです。
左室形成術は経験豊かなチームで行わねばならないというのはそのためです。
私たちはこれまでの100例以上の左室形成術の経験をもとに
、ドール手術の簡便さと、セーブ手術の精確さをもつ、方向性ドール手術を開発し、
これまで10例以上で死亡ゼロという良好な成績を得ています。
改良バチスタ手術とともに欧米ですでに評価を戴き、さらに進めていく予定です。
また手術のあとに強い僧帽弁閉鎖不全症を残すと危険なこともあり、
生存しても心不全が発生して長生きできにくくなりますので、注意が必要です。
虚血性僧帽弁閉鎖不全症と呼ぶのですが、
ここまできちんと治す必要があるのです。
また必要に応じて両室ペーシング(CRT)を併用することもあります。
左室瘤は瘤以外の部位は比較的良好な状態のため、適切な手術のあとの経過は良い のがふつうです。
しかし長期的に、リモデリングと呼ばれる左室や心筋の変化を予防することも大切です。
そこで手術しっぱなしではなく、
術後長期間にわたって、循環器内科や開業医の先生方と協力して、
お薬や適切な心臓リハビリテーションで患者さんや心臓を守ることが大切です。
危険な不整脈が残っているときは埋め込み型除細動器ICDなども活用して患者さんを守ります。
上記のCRTと併せてCRT-Dとして植え込むこともあります(写真右)。
なおお薬としてはACE阻害剤、ARB、抗アルドステロン剤、βブロッカーなどがあり、
それらを血圧などに注意しつつ丁寧に、かつしっかりと使うことで患者さんの予後を改善することが可能です。
このようにして長期間のいのち、とくに元気な生活を守れるわけです。
心移植が法律の改訂のあとかなり増える傾向にあり、
患者さんにとっても医療者にとっても朗報です。
ただしドナーの不足には変わりなく、当
面60歳以上は心移植の対象にならず、
やはりこうした非移植治療が重要な位置を今後ももつものと考えられます。
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