メイズ手術―心房細動のほとんどは治せます
メイズ手術は心房細動を治すための手術です。
心房細動は脳梗塞などを起こす怖い病気ですが、
普通はまずお薬や生活の指導で改善あるいは安全確保できます。
それでもダメなときはカテーテルによって心房の悪いところを焼く、アブレーションを行います。
右図の電気信号がくるくる回る道筋をブロックするのです。
それでもダメなときや、弁膜症あるいは今にも飛びそうな大きな血栓が心臓内で動いているときに手術が役立ちます。
もちろんメイズ手術をそのときに同時に施行して心房細動そのものを治すわけです。
メイズ手術の生い立ち
1987年にアメリカ・セントルイスにあるワシントン大学のコックス先生(Dr. James Cox、左写真です)が開発された手術です。
心房の中をまるで迷路(英語でメイズ)のように複雑な切開を入れ、
心房細動の原因になる悪い電気信号を遮断するというのが
この手術の考え方です。
心房の壁をいったん切ってつなぐため、
壁の切り傷が治っても心臓の筋肉は治らないため、電気も通らなくなるわけです。
このメイズ手術が発表されたとき、トロントで仕事をしていた著者もアメリカの学会でその講演を聴き感心したものでした。
さすがアメリカ人のパイオニア精神はすごいと思いました。
メイズ手術はその後改良を重ねられ、バージョン3ともいえるメイズIII手術にまで進化しました。
これが cut-and-sawつまり切ったり縫ったりのメイズ手術です。
ワシントン大学のデータではメイズIII手術では術後10年で96%の患者さんが心房細動なしで過ごしておられるそうです。
その間、脳卒中なしで行ける確率は99%を超えます。
現在はさらに低侵襲化を加味したメイズIV手術まで開発されています。
メイズ手術はなぜ効くか?
メイズ手術は電気信号が心房の中を異常な形でぐるぐる回る、
マクロリエントリーと呼ば れる状態を止めることで心房細動を治す手術です。
悪い電気信号を止めるために心房のあちこちを系統だってきちんと切り、
そしてそこから出血しないようにつなぎなおします。
こうすることで洞結節(SA nodeという、自然のペースメーカーです)からの正常信号が正しく心房を通過し、
きれいな脈になります。
昔の不整脈手術とはちがってメイズ手術は心房と心室の正しい同期や規則正しい脈拍を回復させることができます。
そのため脳卒中も減るわけです。
そうしてメイズ手術は心房細動治療の主流になりました。
メイズ手術は当時このように革新的な治療法だったわけですが、
その名のとおり手技が複雑で一部の心臓外科医しかできない手術でした。
1999年のアメリカのメイヨクリニックの検討でも手術死亡が1.4%、ペースメーカーが3.2%必要でした。
その後メイズ手術は進歩をとげ、心房壁をinsicion切る代わりにablation焼くようになり、
出血の心配も減り安全性が高くなりました。
心房壁を焼くことで筋肉は瘢痕(すじのような組織です)となり悪い信号は伝わらなくなります。
この方法をメイズIVと呼ぶことがあります。
ラジオ派焼灼と言われる温熱法で比較的簡単なメイズ手術ができるようになりました。
私たちはそれに先立って1990年代の終わりごろから、冷凍凝固法を改良し、短時間でできるメイズIV手術で成績を上げました。
心房がそれほど大きくないときや心房細動の期間が10年以内であれば
この方法で十分な成果つまり除細動ができるようになりました。
そしてそれでも治らない重症例に対して心房縮小メイズ手術を開発して
治療の恩恵が広がる努力を進めて行ったのです。
また重症例だけでなく軽症例にはより低侵襲つまり体への負担が少ないメイズ手術が発展しました。
たとえばラジオ波焼灼をもちいて体外循環なしでメイズ手術ができる簡易型の方法や、
心臓を止めてもより短時間で焼灼できる方法などです。
私たちは体外循環なしで、しかもお腹に小さい切開を入れるだけで完全メイズができる低侵襲完全メイズ法をヨーロッパから導入し、内科の不整脈の先生方とチームを組んで日本で実現できるよう、努力をはじめています。
これらは心房細動に悩む患者さんにとって朗報となるでしょう。
あわせてMICS法で僧帽弁形成術などの僧帽弁手術をすることが増えたのを活かして、
メイズ手術をミックス手術(MICS)の小さい皮膚切開でも行えるようになりました。
右図で左側が従来手術の皮膚切開、
右側がMICS法による皮膚切開の創です。
患者さんにやさしい治療の一翼をになえれば幸いです。
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