自己心膜―便利で有用な手術材料、しかし注意点も

Pericard 心膜は心臓の周囲にある袋状の膜です(左図)。

普段は心臓を包み守っているのですが、

これが心臓手術に役立つため、

昔から心臓外科医に愛用されてきました。

患者さんご自身の心膜を自己心膜と呼び、

比較的しっかりした強度があり、かつご自身の組織ですので拒絶反応が起こらず、

炎症も起こりにくく、

そのまま使えば生きた組織なので感染にも比較的強いという特長もあるからです。

 

たとえば心房中隔欠損症(略称ASD)の閉鎖には現在も自己心膜がしばしば使われます。

心膜周囲の組織をきれいにはがしてから使えば、

血栓もできにくく、フィットも良いため安全な手術材料として重宝されています。

 

心筋梗塞のために左室が壊れたときに、これを自己心膜のパッチで左室形成することもあります。

心筋こうそく後の心室中隔穿孔(心室中隔に穴が開きます)でも使うことがあります。

 

Pericard4 弁膜症でも、たとえば感染性心内膜炎のそれも重症で

弁の付け根に膿が貯まり抗生物質も効かなくなる弁輪膿瘍でも

感染組織をすべて取り去ったあと、

自己心膜で再建することがあります

(右図はその一例です)。

生きた自己心膜は人工物よりは免疫抵抗力があるからで、実際役立つことが多いです。

大動脈弁輪拡張や大動脈基部再建でも使うことがあります。

 

自己心膜だけでなくウシやブタの心膜も使いやすく有用で、

大動脈手術左室形成術などに活用することがありますが、

これらはグルタルアルデハイド処理してあるため抵抗力がなく、感染がらみの場合は弱くなります。

そのため感染性心内膜炎などの場合はグルタルアルデハイド処理していない自己心膜が有利です。

 

図 マノージャン法 自己心膜は肺動脈や大動脈、あるいは僧帽弁大動脈弁の修復や拡大(右図)にも活用されることがあります。

大動脈は圧が高いため、自己心膜がしっかりしているケースではそのまま使用することもありますが、

心膜が薄いケースでは二重にして用いたり別のパッチで裏打ちすることもあります。

肺動脈や右室は圧が低いのですが、

先天性心疾患のなかには高圧の場合もあり、

そうしたときに何らかの補強がされることもあります。

 

僧帽弁の形成術では弁葉の補てんや拡張のために自己心膜を使うことがあります。

そのままでは時間とともに縮んだり石灰化しやすいため

グルタルアルデヒドで処理してから使うことも多いです。

長期成績が徐々に明らかになり、今後有望な方法として、

弁置換術に問題がある場合などに使うようにしています。

大動脈弁の形成術でも心膜を使うことがありますが、

従来の方法つまり弁を自己心膜で大きくする方法などは成人とくに高齢者では報告があまりなく、あっても良くない成績です。

今後の研究が待たれます。

 

いずれの場合でも、弁の先端部に自己心膜を使うことは一般に少なく、

これはこうした使い方の長期の安定性が悪いという報告によるものです。

 

それでは弁全体を自己心膜で取り換えるのはどうでしょうか?

 

AVrepair peridard leaf extention 畏友Duranデュラン先生の報告(Duran C 他. Eur J Cardiothorac Surg 2005;28:200-5
)でも、

自己心膜大動脈弁手術にて10年で86%が再手術回避できており、

これは45歳で生体弁大動脈弁置換を受けた患者さんの成績(Banbury MK 他. Ann Thorac Surg 2001;72:753-7)と同じです。

つまり45歳より年上の患者さんでは生体弁はもっと長 Health_0152持ちするため、

45歳以上の患者さんでは自己心膜手術は患者さんには不利、

早めに再手術が必要となるわけです。

 

自己心膜で弁全体を取り換える手術として考えられる弱点として以下が挙げられます。



1.心膜の構造と弁葉・弁尖の構造は違い、

心膜は必ずしも高圧での頻繁な折れ曲がり(心拍数70として一日10万回、一年で3650万回)に強いとは限らないこと


2.縫い付けるために針孔が多数でき、そこがミシン目効果を生じて、

ちょうど切手をちぎるときのように、弁がちぎれやすくなる


3.カルシウム(石灰)が沈着しない処理は特許や企業秘密でまだ一般化していないためカルシウム対策が少ない



弁の先端部の一部だけ自己心膜で取り換える場合は力のかかり具合や折れ曲がりが少ないため必要な場合は使えると考えていますが、

弁の先端部全部を取り換えるのは何らの長期保証がなく、

しかも高齢者の場合は生体弁が16-20年も持つことが示されているため

ワーファリンなしの生活という意味でも生体弁のほうが有利と考えられるからです。

 

一方、弁の根本の部分が感染性心内膜炎などで壊れたり穴が開いたときに自己心膜で補てんするのは

それほど折れまがらず比較的安定度が良い部位のためよく使われます。

 

このように自己心膜はさまざまな活用法がありますが、

グルタルアルデハイド処理だけではその限界があることを知って使う必要があると考えます。

また心膜を取るためにあとでそこが欠損となり、

術後の癒着を増やすという副作用もあります。

癒着はもしもの再手術時にやや不利な状況をもたらすためゴアテックスシートなどを使用して予防に努めますが、

その効果には限界があります。

 

Sick_0345歳以下の若い患者さんの場合は生体弁の耐久性が低下するため自己心膜手術の意義が出てくる可能性があります。

しかし自己心膜の耐久性も低下する恐れがあるため、まだこれからの研究課題です。

これまでのデータでは「有望」です。

私たちはこの方法を比較的若い患者さんに使い、良好な印象を得ています。60歳前後までは生体弁の耐久性がやや弱いため、自己心膜をうまく使うようにシフトしつつあります。

これからの展開が楽しみです。

また生体弁の手術の後なら、カテーテル弁(TAVI)が安全に行いやすいため、

2度目の手術が安全に回避できるということもこれからの医療では念頭におく必要があります。

 

総合的に患者さんの安全とQOL(生活の質)向上を考え、

オーダーメイド的にその方に一番適したものを提供する医療が今後主流になるでしょう。

同時に医学の鉄則は「患者さんに良いことはする、

しかし良いかどうか不明なことはしない」ですので、

慎重に検討を進めることが大切です。

Heart_dRR
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最終更新日時

  • 平成26年 8月31日(日曜日)