⑧経カテーテル的大動脈弁置換(植込み)術(TAVI)とは―患者さんに福音?
人口の高齢化にともなって大動脈弁狭窄症(略称AS)が増加しています。
この病気は70代から増え、80代に急増することが知られています。
弁の狭窄(狭くなること)が高度になれば心不全、胸痛、失神などが起こり、突然死したり1年以内に死亡するおそれの高い病気です。
大動脈弁狭窄症そのものは大動脈弁置換術(略称AVR)を行えば多くの場合、安全に、かつ元気に社会復帰できるため、
患者さんも医療者も治療のし甲斐のある病気です。
しかし高齢者なるがゆえに、さまざまな他病を抱えた患者さんも多く、
体力も低下しているため、手術リスクが高いと言われて、
手術を受けずにそのまま死亡される患者さんが後を絶ちません。
経カテーテル的大動脈弁植え込み術(Transcatheter aortic valve implantation、略してTAVI タビ)はそうした状況を打開するために開発されました。
現在までに、欧米を中心に臨床研究が進んでおり、
日本でも臨床治験として試用が始まっています。
TAVIには大きくわけて3つの方法があります。
1.順行法、2.逆行法、3.経心尖部(心臓の先端部)法です。
ここでは主に2と3.についてご説明します。
1.順行法:心房中隔ごしにカテーテルを進める方法ですが、
長いアプローチに少々無理があり、僧帽弁を逆流させたりするため一般的ではありません
2.逆行法:足の付け根にある大腿動脈からカテーテルを入れます。
これまでに2つの弁(エドワーズ・サピエンEdwards SAPIEN弁とコアCoreValve弁)が発売されていて、
それぞれ研究が進められています。
サピエン弁のヨーロッパでの成績はこれまでのところ次のとおりです。
平均82歳の患者さん463名に対して、
弁植え込み自体は95%成功。しかし1.7%で失敗し緊急手術へ、0.6%で弁逆流などのため追加治療へ、1.6%で有意な弁逆流、0.7%で冠動脈入口を閉塞、9.9%で輸血が必要などの問題が見られました。
治療後30日で6.3%が死亡、2.4%が脳卒中、1.3%が腎不全と透析、6.7%がペースメーカー、17.9%で血管の損傷、1.9%で大動脈解離、1.1%でその他の合併症などが見られました。
いったん成功すると平均大動脈弁圧格差は術前の39±14 mmHgから術後は 9±3 mmHgへと改善しました。
コアバルブ弁でも平均81歳の患者さん646名で行われ、同様の成績でした。術後に軽度から中等度の弁逆流が少なからず見られています。
治療後30日で8%が死亡、9.3%がペースメーカー、0.6%で心筋梗塞、1.9%で脳卒中が見られました。症状に出ない脳障害がMRIで従来型の手術より多く見られたと言います。
3.経心尖部(心臓の先端部)法
全身麻酔下に小さく左胸を開けてそこから心臓の先端部に直接カテーテル弁を入れる方法です。
大動脈などの血管が動脈硬化などで悪いときに安全な方法です。
この方法でSAPIEN弁を575名の患者さんに使ったデータは次のとおりです。
平均年齢81歳で
弁植え込み自体は93%成功。しかし3.5%で失敗し緊急手術へ、2.3%で有意な弁逆流が見られました。
治療後30日で10.3%が死亡、7.3%がペースメーカー、0.7%で心筋梗塞、2.6%で脳卒中が見られました。腎不全をおこし透析になったかたが7.1%あったということです。
つぎにTAVIと内科治療つまりお薬などによる治療との比較では
358名のAS患者さんで、
術後の死亡や繰り返し入院の頻度は内科治療群72.6%に比べてTAVI群は42.5%とやや良好でした。TAVI群では75%の患者さんが術後無症状または軽症状だったのに対して内科治療では42%にとどまりました。
この結果から、これまで手術ができずに、あるいは手術の決心がつかずに拒否しておられた患者さんにTAVIを行う意義は十分あると考えられるようになりました。
今後の方向
TAVIは欧米といえどもまだ試験段階の治療法です。
ヨーロッパでは従来型の大動脈弁置換術AVRが危険すぎるときに認可され、アメリカではまだFDAの認可が下りていません。
ヨーロッパ心臓胸部外科学会やヨーロッパ心臓学会のガイドライン(2008年)でも、
TAVIは症状のある大動脈弁狭窄症ASで従来型手術が危険すぎるときや、
手術禁忌(してはいけない)ときに勧められています。
総じて TAVIは、、、
10-20%と高いリスクがあり、長期成績が悪いことからまだ限界が多いと言われています。
本来、従来型手術つまり大動脈弁置換術が危険でできない患者さんのためのものです。
さらに多くの経験の蓄積が必要と言われています。
実際、これまでの欧米での発表を見ていますと、
治療後1年の生存率がおよそ50%前後の報告が多く、いくら高齢や重症患者さんが対象でも、成績が悪すぎるという印象が強いです。
術前リスクは多少違うでしょうが、大動脈弁置換術のあとなら、90歳前後のご高齢患者さんでも透析患者さんでも心機能が低下した方でも、
術後1年ではほぼ全員がお元気ですので、やはりまだこれから研究し改良すべき治療法と言えましょう。
(2011.1.記載)
参考: TAVIの今後の応用として→ valve in valve があります。
メモ: TAVI (新名称TAVR)の新しいデータがPARTNERトライアル(臨床研究)から発表されました。ご参照ください。
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