②b 三尖弁形成術について―99%の弁形成率を100%へ?
三尖弁形成術は一見目立たない手術ですが、患者さんに大きな貢献をもたらす手術です。
うっ血のため全身に大きな負担をもたらす三尖弁閉鎖不全症(三尖弁が逆流する病気です)がお薬や安静などではコントロールできなくなったとき、
三尖弁形成術を行えば多くの場合、改善が図れるからです。
とくに肝臓をうっ血から守るという意義は大きいです。
内外の学会でも三尖弁形成術の重要性が認識される方向にあり、
実際この三尖弁形成術をテーマとしてよく議論が交わされるようになりました。
1)基本術式
三尖弁形成術の基本は三尖弁の付け根である弁輪を
適正なサイズと形に形成する三尖弁輪形成術(略してTAP)です。
かつてはDeVega(ドゥベガ)法という、1対2本の糸で弁輪を縮小形成することから広がりました。
大変シンプルで短時間にでき、
しかも当時の知識からは理にかなった方法で三尖弁の中隔尖はそのままにし、
前尖と後尖を糸で縮めるというものでした。
現在でも重症患者さんで時間の余裕がないときや、
弁輪拡張が軽いときなどに使える良い方法です。
しかしこのドゥベガ法は長年月の長期成績で後述のリング法より劣り、
その原因は糸を支える組織が次第に切れて縫縮効果が薄れること、
そして中隔尖を守れないことなどが考えられました。
その後パリのカーパンチエCarpentier先生が自ら開発されたCarpentierリングを用いた三尖弁輪形成術を発表され、
その優れた長期安定度から次第にこのリングTAPが標準手術として定着していきました。
さらにモンタナのデュランDuran先生が開発されたDuranリングを用いたTAPも使えるよ うになりました。
このリングは柔軟なため、大動脈基部に三尖弁輪がやや圧迫されその形が平均的でない場合などに有用と考えています。
クリーブランドのコスグルーブCosgrove先生が開発されたCosgroveリングはDuranリングと異なり全周性でないため、
やや簡便に使えるという利点があります。
現在は上記のリングに加えてMC3リングという三尖弁輪形成用リングが普及しています。
このリングは大動脈基部の自然のふくらみを考慮してすこしらせん状にねじれた形をし、
三尖弁輪にきれいにフィットし、
また自然の三尖弁構造を再現するという利点があります。
ただし大動脈基部が拡張ぎみ(しかし手直しするほどではない)のケースではMC3リングがフィットしないことがあります。
こうした点をケースバイケースで考慮してその患者さんに最適の三尖弁形成術を行うようにしています。
2)応用術式
三尖弁輪形成術TAPだけでは解決しない三尖弁閉鎖不全症が時にみられます。
一般病棟にはこうしたケースで三尖弁置換術、つまり人工弁で置換することが行われます。
しかし三尖弁置換術の長期成績は必ずしも芳しくありません。
それは機械弁では血栓が僧帽弁よりできやすく、生体弁でも弁の劣化が起こりやすいからです。
そこで私たちはこうしたケースでゴアテックス人工腱索をもちいたり、自己心膜を用いて三尖弁をより精密に形成するようにしています。
これは僧帽弁の複雑形成術で培った技術で可能となりました(右図)。
たとえば腱索が長年の逆流や感染のために短くなったり切れたりしている場合、通常は形成できないのですが、人工腱索の技術ではそう難しくありません。
ケーブルのため腱索が巻き込まれてぐちゃぐちゃになっているケースでも
これまで形成が成功しているのはこのおかげです。
またMICS(ミックス、ポートアクセス法)と呼ばれる小切開低侵襲な方法による三尖弁形成術も実用化しつつあります。
右図の左側は標準的な正中切開の創を、右側はポートアクセス法での創を示します。
私たちの経験では三尖弁形成術単独でも、あるいは僧帽弁手術やメイズ手術との組み合わせでも、
安全に手術ができ、社会復帰や美容効果も大きいものがあります。
3)今後
こうした工夫や新しい材料を駆使してさらに三尖弁形成術は進化していくものと考えます。
MICS法は一段と発展するでしょう。
さらに今後は大動脈弁に対するTAVIのような、
カテーテルをもちいて折りたたんだ生体弁を植え込むタイプの治療も加わり、
治療成績はさらに上がり、より多くの患者さんが恩恵を受けられるでしょう。
そうしたこともあり、手術できない、とくに肝臓がうっ血肝硬変になって手術不可能と言われた方でも中には手術ができるケースが多々あります
(患者さんのお便りやペースメーカー三尖弁閉鎖不全症などをご参照ください)。
まずは経験豊かな医師と相談し、ともに考えることが大切です。
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