心臓弁膜症とマルファン症候群について―よく起こるためご注意を
心臓弁膜症というのは、弁の逆流とか、狭くなるとかで、
特にマルファン症候群などの結合組織の病気の場合は、大動脈弁、僧帽弁の逆流ですね。
僧帽弁の再建について。
僧帽弁は、2枚(前尖・後尖)が閉じたり開いたりしています。
ピラピラ開いたりしているところを支える糸(腱索)がやられるのです。
糸が順番に切れていって逆流が強くなって来られるパターンは、形成がしやすいです。
糸ですので、人工の糸(ゴアテックスの人工腱索)に変えて形成すればいい のです。
ただ長さを決めたりするのがけっこう難しいので、慣れている外科医でないとあまりできません。
とくに多数の人工腱索を立てる時ですね。
個人的には 人工腱索は、20年前くらからやっていて、一番初めからやっていたグループの一人です。
トロント大学に昔行っていて、そこで人工腱索の手術を開発した経緯 があります。
おかげで20年以上の経験の蓄積があります。
人工腱索は、後で切れるということはまずないです。
僧帽弁(大動脈弁もそうですが)は、人工腱索などを用いて弁がバシッと合うと、長持ちします。
どちらかが落ち込んだり、はずれたりして、ひとりぼっちになると、どんどんダメになるんです。
人間と一緒で、支え合っているうちは長持ちする んですね。
前と後ろがバシッと支え合っていると普通でいけば何十年単位で長持ちします。
大動脈弁の弁膜症は、弁そのものよりも、弁の付け根の大動脈が広がって起こること が多いです。
そこで大動脈弁を含めた大動脈の付け根(大動脈基部と呼びます)を全部置換するベントール手術や、
患者さん自身の弁を温存する基部再建(デービッド手術やヤクー手術)を行います。
自己弁形成(再建)と生体弁について
弁形成にこだわる理由としては、
弁形成ができれば、ワーファリンがいらないです。
若い人の場合はこの辺が大事です。
女性の場合は妊娠出産ができるようになります。
男性の場合は、仕事とかスポーツが非常にやりやすくなります。
要するに、生活の質がよくなるわけです。
もちろん、機械弁もよくなっています。
機械弁に したら、とりあえずそれで病気は落ち着きます。
ワーファリンを使いながら、妊娠出産に努力している産科の施設も一部あるようですが、
まだ課題は多いと いうところです。
今も時々相談がありますが、
やっぱり機械弁を持って妊娠出産というのは、相当な覚悟と入念な準備をしないと。
楽にできる状況ではありませ ん。それもあって、やはり弁形成なのですね。
それでは、生体弁ではどうなのか。
生体弁も、もちろんひとつの良い方法です。
若い女性で、自分の弁を形成できないくらいボロボロになっている場合、生体弁にします。
その場合、どんな問題があるかというと、あんまり長持ちしないのです。
生体弁は、年齢に もよるのですが30代40代という若い人であれば10年か余りくらいに考えておくのが慎重で確実です。
若いということと、妊娠すると、お母さんの分だけで なく赤ちゃんが成長するカルシウムで、その分何年か割引になるのです。
「それでも構わないからやってほしい。その変わり次の手術はしっかりやってほし い。」と、そこまで預けられたら、しっかりやります。
それもひとつの方法で、子どもを作って、ちょっと落ち着いたところに弁が壊れてきたら、そこで機械弁に 替えるわけです。
大変ですけど。
初めの手術のリスクが1%以内であれば、2回目の手術のリスクはだいたい2%以内ですので、普通でいけば勝てるというくら いのラインは出せます。
しかしこれも外科チームの慣れ・熟練が大事です。
再手術というのは独特な問題や課題がありますので。
弁形成は、若い人でも長持ちするんですね。そこは生体弁と違うところです。
●質問:生体弁に置換後、生体弁の交換時期にはどのような症状が現れてくるのでしょうか?
お答え:生体弁が年月を経て壊れてくると、弁が逆流したり狭くなり、その症状が現れます。
生体弁が入っている位置つまり大動脈弁か僧帽弁かで症状も多少違います。
よ くあるのは息切れ、とくに体を動かすときの息切れや動悸、足のむくみなどです。
大動脈弁に入った生体弁が壊れれば胸痛やふらつきなどもあります。
一般にそ うした症状は次第にでてきて突然死することは少なく、
おかしいと思えば病院へ行く時間がある場合は多いようです。
●質問:大動脈弁の自己弁温存(形成)の場合、個人差があると思うのですが、
何年か過ぎたら安心できるということはあるのですか?
お答え:逆流がほぼ完璧にとれていれば、長持ちしやすいです。
それでも、手術の段階で薄くなっていて穴が空きそうであれば、普通よりはより一段、より慎重なフォロー をしておいたほうがいいです。
それで、私たちは、形成はできるけれど“10年持つか”ということをいつも考えて、10年持たないのであればそれは生体弁の 方が上と考えています。
生体弁は40代以上であれば10年は確実に持つ。うまくいけば15年持つ。
それだったらむしろ自己弁にこだわらず、生体弁にしよう ということもあります。
これはケースバイケースです。
発表されているデータも違うのです。
それぞれ正確に発表しているから違うのです。
厳しい基準でやっているところは、形成(再建)できる率は落ちます。
そのかわり、再建できた人は長持ちするというわけです。
そこは、内容をよく吟味して考える必要があります。
僧帽弁の場合は、まず形成できたらずっとそれでいけますので良いのですが、大動脈の場合は“形成できる=すばらしい・ベスト”ではなくて、“長持ちするも のがベスト”なのです。
必ずしも再建にこだわるということではないのです。
5年しか持たない形成だったら、それは生体弁のほうがいいわけです。
実質をよく 検討する必要がありますね。
機械弁について
高性能で音が静かな弁もあります。
機械弁の良いところ。
ある程度の年齢になって、妊娠出産の希望はないとか激しいスポーツをすることもないなどであれば、
きちんとワーファリンをコントロールできる人であれば、
機械弁は逆に良い選択肢になる場合もあります。
機械弁の場合、将来自宅でINR(血液検査の方法、これでワーファリンの効き具合がわかります)が調べられるようになると大きいと思います。
健康な方で鼻血が止まらないということで調べたらINR(血液検査の名前でワー ファリンの効き具合がわかります)が上がっていたとか、
夏風邪でお腹が下って食べられなかったためビタミンKがほとんど入っていない。
そうするといつもと同じ量を飲んでいてもワーファリンが日ごろの数倍効いている。
野菜もワーファリンもコンスタントに食べる。
それが崩れるときにINRを調べればよい。
糖尿病の患者さんが、家で血糖値を計るみたいに、家でワーファリンの効き具合をみるということは、外国ではできるんです。
日本ではなぜかこういう認可がなかな か下りない。
いわゆるドラッグラグならぬ、デバイスラグですね。
家でワーファリンのチェックができるようになる
と、非常に安全性は高くなると思います。
野菜をたくさん食べる日もあれば、食べない日もありますよね。
食欲自体もある日とない日があります。
野菜をあんまり食べない日は、ワーファリンの効き具合が ガーンと上がるのです。
逆に、いっぱい食べた日は下がります。
下がった時に、脱水とかが加わって血栓ができるということは起こり得るのです。
では、どうし たらいいか。そういう時に、自分でちょっと血液を調べて、
「あぁ、ワーファリンが効きすぎてINRがのびている」とわかれば、
すぐにかかりつけ医や専門病 院に電話して、
「いつもは3錠だけど、今日は1錠にしておきましょう」などという細かいアドバイスをもらうことができるようになります。
今はそう いう時どうするかというと、お手数ですけど、病院に来ていただいてINRを調べます。
血液検査を受ければ、即座に手を打てるので、安全性は格段に高まりま す。
機械弁をお持ちの方によく言っていることなのですが、
そういうちょっとした手間を惜しまなかったら、安全性はうんと上がります。
●質問:ワーファリンのいらない人工弁について。
ベントール手術を受ける際、医師よりOn X弁を使いますという説明があり、
もしかすると将来ワーファリンがいらなくなるかもしれませんという説明でしたが?
お答え:OnX 弁というものは私たちも時々使っています。
ヨーロッパではワーファリンなしで使えるというデータがあるのですが、
しかし最新の研究データでは、ワーファリ ンなしで脳梗塞を起こしたという例が若干出たので、ワーファリンを止めるというのは良くないというのが現時点での認識です。
ただ数十例以上ワーファリンな しでうまくいっているということがあるので、30代で不整脈が全くなくて、これこれという条件を満たす人なら大丈夫・・・
今後そうした可能性はあると思い ます。
もしOnX弁でワーファリンが半分に減らせたら、これはすごい大きなことです。
仮にワーファリンなしで行けなくても、ワーファリンを減らせるだけで も立派なことです。
OnX弁はまだまだこれからのものです。
究極の弁というわけではありませんが、OX弁はよい選択肢のひとつかも知れません。
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