手術事例: 突然死寸前の状態で来院された大動脈弁狭窄症の患者さん

患者さんは69歳女性です。重い大動脈弁狭窄症のため和歌山県南部からはるばる名古屋ハートセンターまで来院されました。息苦しく立つことさえ厳しい状態でした。

  大動脈弁は圧較差(弁の前後での圧の差、一般に60mmHg以上あれば手術が必要なレベ 術前長軸エコーです。大動脈弁はほとんど開かず、左室もぶ厚くなり高度の左室肥大でした ルです) 174mmHg、弁口面積 0.27cm2(正常の10分の1未満)というシビアな状態でした。左室壁厚は部位によって17-19mmもあり高度の左室肥大でした。駆出率も46%まで低下していました。

しかも二次的に僧帽弁閉鎖不全症や肺炎(高感度CRP 9.98)まで発生していました。
長年の喫煙のためCOPD(たばこ肺)もあり、危険な状態でした。地元で手術を受けるには危険すぎると言われたそうです。(写真左)
心不全に肺炎と慢性のタバコ肺が加わった状態で来院されました
心不全と肺水腫に肺炎が合併していましたので入院後2日間の間に抗生物質でこれをできるだけ治し、CRP(感染などを調べる検査です、正常は0です)を3台にまで下げて手術に臨みました。

症状が強く、血行動態が不安定なため手術直前に透視下にIABP(心臓補助のための風船ポンプ)を挿入・開始しました。スムースに全身麻酔導入し、胸骨正中切開で心臓に到達しました。

体外循環・大動脈遮断下に上行大動脈を切開しました。

大動脈弁は3尖でいずれも石灰化が強く、その石灰化は弁輪までおよんでいました。そのため弁は真ん中の小さい開口部のみというピンホール状態になっていました。確かに危ないところでした。弁と石灰を完全に切除しました。(註:手術写真は現在工事中です、申し訳ありません)

狭小弁輪(弁の土台そのものが小さいこと)のため高性能なウシ心膜弁19mmを縫着しました。通常の生体弁弁の23mm相当のサイズでこの患者さんの体格からは十分な弁口面積が得られると考えられました。

上行大動脈を2層に閉じて、数回にわたるエア抜きののち、体外循環を離脱しました。離脱は強心剤なしで容易でした。入念な止血ののち手術を終えました。

経食エコーにて大動脈弁の機能良好と狭窄・逆流等がないことを確認し、また術前中等度あった僧帽弁閉鎖不全症が消失したことを確認しました。これは大動脈弁が人工弁で良くなり、左室の圧がほどよく下がって自然に僧帽弁も逆流しなくなったわけです。

退院時には心臓も落ち着き肺もかなりきれいになりました。その後心臓の肥大も徐々に改善していきました。 術後経過は順調で、術翌朝、人工呼吸が外れ、その翌日、一般病棟へ戻られました。その後肺も回復し元気に退院されました。

大動脈弁狭窄症は圧較差が高くなると心不全、胸痛、息切れが出てきて、さらに進行すれば突然死も起こる病気です。この患者さんの場合は突然死の一歩手前でした。しかしいったん手術を乗り切ると普通の生活に戻れることが多く、この患者さんもずいぶんお元気になられました。遠方から時間をかけて定期健診に来て下さるのですが、笑顔ではつらつとしておられる姿を拝見し、お互い喜びがこみあげて来ます。
患者さんの決断と、ご指導下さった地域の先生に敬意を表したく思います。


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最終更新日時

  • 平成22年 9月2日(木曜日)