手術事例: コレステロール塞栓と虚血性僧帽弁閉鎖不全症の患者さん

患者さんは59歳男性です。近くの病院で冠動脈狭窄に対してカテーテル治療PCIを受けられました。

その際に、不運にも大動脈内のプラーク(油などの塊)が外れて下肢の方へ流れ、足の血管を詰まらせてしまったとのことでした。いわゆるコレステロール塞栓という不運な状態で、大変予後が悪く、下肢の虚血に加えて炎症反応などが惹起され、命の危険がある状態でした。あと2週間の命と言われて名古屋ハートセンターへ来院されました。

その時点では心臓はPCIで改善せず弱っており、駆出率35%(正常は60%台)と低下し、しか 手術前には僧帽弁は逆流し弁のテント化もみられました も虚血性僧帽弁閉鎖不全症と心房細動(脈が不規則になり心臓のパワーも低下します)を合併していました。かつ下肢も全身も悪い状態で、どこから手をつけてよいか、考えこむような状況でした。

そこでまず、お薬や点滴などで下肢や腎機能等を一旦安定させ、そのタイミングで心臓を手術等で安定させ、心臓が回復したところでさらに下肢の治療を進め、再生医療へ持ち込む、という方針を立てました。

胸骨正中切開ののち心膜を切開しました。心臓は球状化し心不全の重症度を示す所見でした。左内胸動脈と左大伏在静脈を採取しました。

まず右冠動脈の枝に静脈グラフトを縫い付けました 体外循環・大動脈遮断下にまず静脈を右冠動脈4PD枝に吻合しました。

これ以後、心筋保護液はこのグラフト越しにも注入し、心筋の保護に努めました。

左房を右側切開しました。

僧帽弁葉はとくに問題なく、多少のテント化(弁が左室側へ 僧帽弁輪に糸がかかったところです けん引されること)はエコーで認められたものの、主に後尖側弁輪の拡張が逆流の原因と考えられました。

そこで硬性  リング24mmを用いて僧帽弁輪形成術MAPを施行しました。

テント化が強いときは乳頭筋や腱索に操作を加えて弁の安定化を図りますが、この患者さんの場合はそれは不要でした。 

僧帽弁輪にリングがついたところです 写真右はMAPの糸がかかったところで、写真下はMAPリングを縫着した写真です。


拡張していた後尖弁輪がかなり小さくなりました。
 
 写真左上は肺静脈と左房本体を冷凍凝固にて電気的に離断しているところです。写真右上は僧帽輪周囲を同様にアブレーションしているところです。これらによってほとんどの場合心房細動は正常化します。左房を2層に閉鎖しました。

心臓を軽く脱転し左内胸動脈LITAを回旋枝の鈍縁枝に吻合しました。最後に静脈グラフトの 左内胸動脈グラフトが冠動脈回旋枝についたところです 中枢吻合を行い大動脈遮断を解除しました。
 
写真左は鈍縁枝にLITAを吻合したところです。

ここで体外循環を離脱しました。離脱は心房ペーシングにて強心剤なしで容易にできました。

経食エコーで僧帽弁閉鎖不全症の消失と左室壁運動の改善、僧帽弁テント化の軽減を確認しました。ドップラーにて2本のグラフトが良好なフローパタンを有するのを確認しました。

術後経過はまずまず良好で、少量のカテコラミンと血管拡張剤PGE1を使用して状態安定し 二本のバイパスグラフトは良好に流れていました 、術翌朝抜管し一般病棟へ戻られました。

心臓や全身は良くなってもしばらくは足の痛みは残っていました。そこで大学病院で再生医療を検討して戴きましたが、その適応はなく、足指の腐ったところだけ切除し、退院されました。
その後はお元気に暮らしておられます。写真右はバイパスが良く流れていることを示します。

術後は僧帽弁のテント化は軽減し逆流も消えました 写真左は僧帽弁テント化が改善したことを示します。

コレステロール塞栓は命にかかわる重い病気ですし、虚血性僧帽弁閉鎖不全症は心臓が弱っているときに発生する病気ですからそれも重症でした。

しかし工夫と患者さんの頑張りで無事社会復帰して頂いたことをうれしく思っています。


6) 狭心症が悪化して心筋梗塞になってからでも手術はできるのですか? へもどる

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最終更新日時

  • 平成22年 9月2日(木曜日)