手術事例 病気を多くもった大動脈弁狭窄症の患者さん

患者さんは、85歳男性。

大動脈弁狭窄兼閉鎖不全症(圧較差109mmHg)、三尖弁閉鎖不全症(高度)、僧帽弁閉鎖不全症(軽度)、心房細動、心不全、のため来院されました。糖尿病、心筋梗塞後状態、睡眠時無呼吸症候群、呼吸機能障害などもお持ちでした。

現代の高齢化社会、西洋式生活の時代にはよくある状態です。

手術前の胸部レントゲン写真です。心臓が大きく肺にうっ血と胸水(胸に水が貯まる)が見られます。かなり苦しい状態です 上記疾患による心不全のため名古屋ハートセンター内科にて治療を行っていました。心臓カテーテルにて肺動脈せつ入圧が30mmHgもあり(つまり強い肺うっ血、心不全)、このままでは退院できず危険なためご家族とも相談の上、準緊急で手術を行いました。

全身麻酔下でも肺動脈圧は50mmHg台で肺高血圧・左心不全の所見でした。

胸骨正中切開、心膜切開を行いますと、心臓は強く拡張し張っていました。術前CTにて上行大動脈に多数の石灰化が見られたため、表面エコーにて最も動脈硬化が少ない部位を調べ、ここを大動脈遮断部位としました。

体外循環(つまり人工の心臓と肺)・大動脈遮断(心臓を一時止めることです)下に上行大動脈を横切開しました。できる最良の部位で遮断しましたが、それでも硬化はあり、遮断が不十分で血液が少しは流出するためそれを心膜腔へ逃がすように工夫し、大動脈弁操作へと進みました。なお上行大動脈や大動脈基部の内側にも多数の硬化病変がありました。

上行大動脈を開けて大動脈弁を調べているところ。弁がカチコチに硬くなっていて開きません。 大動脈弁は三尖で、

いずれも高度に肥厚・短縮・石灰化し、

弁口は真ん中のわずかな小穴だけになっていました(写真左)。

弁と石灰化を大動脈壁付近まで十分に切除しました。

切除した大動脈弁です。カチコチに硬化しており、弁の本来のしなやかさはありません。 写真左は切除した弁尖で、

写真右は大動脈弁切除後・石灰摘除後の大動脈基部を示します。 大動脈弁輪の内側を示します
 
ここでウシ心膜弁(代表的な生体弁です)21mmのサイズを調べましたが、

患者さんの弁の土台が小さいため入りにくく、

この患者さんの術前状態からなるべく短時間で手術をまとめあげる必要からあえて最適サイズより若干小さい19mmサイズのものを選択しました。

人工弁(生体弁)が入ったところを示します。自然な形で弁が入りました。 そのおかげで大動脈基部や弁輪の硬化にもかかわらず、

人工弁の座りは良好でした(写真下左)。

上行大動脈を2層に閉じて

90分で大動脈遮断を解除しました。
 
心拍動下に右房を切開しました。

大動脈基部の拡張のため、視野展開に工夫を要しました(写真下左、拡張した三尖弁輪の一部が見えます)。

三尖弁輪は拡張著明でした。 三尖弁は拡張著明で硬性リング28mmを縫着し、良好な弁の閉鎖とかみ合わせを確認しました(写真下右、リングの左側は大動脈基部です)。 三尖弁輪形成後。弁はきちんと閉じるようになりました。

右房を縫縮しつつ2層に閉鎖しました。

エア抜きと止血ののち、168分で体外循環を離脱しました。離脱には少量のカテコラミン(強心剤のことです)を要しましたがおおむね容易でした。写真下は縫縮後の右房です。
 
経食エコーにて大動脈弁と三尖弁の機能良好を確認し、僧帽弁の逆流は術前より減少し良好、右房が小さくなったのを認めました。術前の肝うっ血のため出血傾向は予想どおりあり、平素より時間をかけて止血をしました。

術後の胸部レントゲン写真です。術前よりかなり改善しました。なお術前は状態が悪くポータブルレントゲンで、やや大きめに映りますが、それを勘案しても心臓はかなり小さくなり改善しました。 術後経過は予測よりは順調で、出血もまもなく治まり、血行動態(心臓や血圧そして全身の血のめぐり)は良好で心配された呼吸機能もまずまずの回復ぶりでした。

術前から肝うっ血のために総ビリルビンが3以上に上昇していたため、慎重に治療しましたが、大過なく軽快されました。お元気に退院されました。

近年はこうした生活習慣病のデパートのような患者さんが増えました。手術もそのあとの治療も大変で、リスクも高くなるのですが、それぞれの問題に対して手を打っていけばほとんどの場合乗り切れるようになりました。患者さんやご家族の理解と協力も大変力になりました。まさに関係者全員のチーム医療ですね。

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最終更新日時

  • 平成22年 9月2日(木曜日)