②b 大動脈弁置換術について―より安全に、より快適に
大動脈弁置換術は強い狭窄(狭くなること)や強い閉鎖不全(逆流すること)を起こした大動脈弁が、
弁形成に適しない状態のときに、
その壊れた弁を切除し、人工弁で置き換える手術です。
大動脈弁狭窄症の場合は
弁が硬く厚くなっていることが多いため弁形成術には適せず、
その多くに大動脈弁置換術が行われます。
10代―50代などの若い患者さんや二尖弁の患者さんでは形成を行うことも増えましたが。
(手術事例 病気を多くもった患者さん)
(手術事例: 冠動脈病変を合併した患者さん)
大動脈弁閉鎖不全症では弁の破壊が少なかったり限局されていることが多く、
大動脈弁形成術になることが少なからずあります。
とくに職業や妊娠出産の希望、スポーツの好み等に合わせて
機械弁(金属の弁)と生体弁(ウシやブタの組織でできた弁)を使い分けます。
生体弁と機械弁の特徴や選択上の注意については生体弁をご覧ください
大動脈弁に縫い付けた機械弁は、僧帽弁の場合と比べるとワーファリンもやや少なめで使えるというメリットがあり、
生体弁も大動脈弁につけた場合は僧帽弁につけた場合よりやや長持ちします。
大動脈弁置換術は他臓器に病気がなければおよそ1%の死亡リスクで手術できます。
手術しない場合のリスクがそれより明らかに高い場合、手術が勧められます。
これはガイドラインどおりです。
大動脈弁狭窄症に対して大動脈弁置換術を行う場合
、いったん手術を乗り切ればその後の心機能や経過は良好です。
それで90歳代のご高齢患者さんでも意欲のある方や体が元気な方には手術をしています。
(高齢者の手術事例)
(手術事例: 突然死寸前の状態で来院された患者さん)
一方、大動脈弁閉鎖不全症に大動脈弁置換術を行うとき、
手術前の左室の状態がひどく悪いときは予後に注意が必要です。
たとえば左室駆出率が30%を割るようなケースではリスクはやや高くなり、
より慎重な手術戦略が威力を発揮します。
私たちは手術前の駆出率が10%台の重症患者さんでも、内容を吟味し、勝てると踏めば、さまざまな工夫をこらして手術しています。(近日学会発表予定です)
さらに患者さんにやさしいミックス手術(MICS、低侵襲小切開手術)を推進しています。
動脈硬化があまりない患者さんでは右胸に小さい創を開けるだけで大動脈弁置換術ができます(ポートアクセス法)が、
動脈硬化のある患者さんの場合は正中線での小切開で行うようにしています。
これにより、痛みを減らし、早期の社会復帰を支援し、
また小さい創で患者さんの気持ちを和らげるようになれば幸いです。
メモ1: 大動脈弁を生体弁で取り換えれば、手術から回復したあとは健康人と見分けがつかないほどになります。
心音も普通の音とほとんど同じです。
心房細動などの不整脈がなければ術後約1カ月でワーファリンのお薬も不要になります。
一方機械弁の場合でも昔と比べるとカチカチした音はずいぶん静かになりました。
もちろん弁そのものが高性能で長持ちするという機械弁のメリットは健在です。
将来の方向として
カテーテルをもちいた大動脈弁置換術(TAVIタビ、経皮的大動脈弁植込術)がハイリスクな患者さんなどを中心に徐々に増えるものと予想されます。
まだまだ問題・課題はあるようですが、今後の展開が期待されます。
メモ2: 大動脈弁狭窄症に対する大動脈弁置換術の日米ガイドラインはこちら
また、大動脈弁閉鎖不全症に対する手術ガイドラインはこちらです
質問1:慢性腎不全のために血液透析を受けている患者さんでも大動脈弁置換術はできるのでしょうか?
回答1:できます。
通常は問題なくできますが、上行大動脈に石灰化などの動脈硬化の変化が強い場合には工夫が必要です。
通常なら上行大動脈をゴムのついた道具で軽く遮断して心臓を止めて中へ入るのですが、
上行大動脈が硬化で悪くなっていると
遮断や遮断解除の際に石灰その他が外れて飛ぶ可能性があり、やや特別な工夫をして対処します。
質問2:大動脈弁置換術前の注意点は?
回答2:病気によりますが、とくに大動脈弁狭窄症(弁が狭くなります)では
無理をすると突然死などの心配があるため走ったり怒ったりというのは控えるようにして下さい。
大動脈弁閉鎖不全症の患者さんでも
気を失ったり胸が痛むなどの場合は主治医に連絡されるのが良いでしょう。
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