4a) とくにオフポンプバイパス手術について(解説)

オフポンプ冠動脈バイパス手術(オフポンプバイパス手術、略称OPCAB オプキャブ)とは冠動脈バイパス手術をポンプつまり体外循環(人工体外循環(人工心肺)稼働中 心肺、写真右)の器械を使わずに行う手術です。比較のためにこれまでの体外循環を使うバイパス手術はオンポンプバイパス手術と呼ばれることがあります。

オフポンプバイパス手術は日本へは1990年代後半に導入され、当初はMIDCAB(ミッドキャブ)手術という左胸を小さく開けてその付近にある左内胸動脈を剥離し、その直下に見える冠動脈(左前下降枝)に縫いつけます。この手術は創が小さく、ポンプも使わない、患者さんに優しい画期的な手術として一世を風靡した感がありました。

まもなく胸骨(胸の真ん中にある骨です)を縦に切って心臓に到達し、治療する、普通の心臓手術と同じアプローチ法を用いるオフポンプバイパス手術が増えて行きました。オフポンプバイパス手術はMIDCABと違って、必要なら何本でもバイパスを付けることができます。MIDCABは心臓の前側に限定されるため通常1本、せいぜい2本程度しか付けられませんが、オフポンプバイパスならいざとなれば5本でも7本でも付けられます。

ただ当初は心臓の裏側の冠動脈(鈍縁枝や回旋枝末梢部や右冠動脈心臓を安全に倒立できるようになってオフポンプバイパス手術は普及しました の枝)にバイパスを付けるために、安全に心臓を脱転つまりひっくりオフポンプバイパス手術中 返す技術がやや未完成であったこと、手術に使える器械が現在のものより性能が悪かったことなどのため、難しい手術と思われていました(写真右は心臓を脱転してバイパスを縫いつけているところ)。

私がCalafiore先生(当時イタリア、現在サウジアラビア)のところで習ったオフポンプバイパス手術を1999年12月の日本冠疾患学会でビデオ講演させて頂いたときはまだ変わった手術という見方をされたように記憶しています。その後心臓を脱転するためのさまざまな工夫や器具ができ、現在はオフポンプバイパス手術が冠動脈バイパス手術の定番となりました。

日本では冠動脈バイパス手術の約3分の2がオフポンプバイパスで、これは米国等と比べて突出した高い値です。技術的にはオフポンプバイパスのほうが通常のオンポンプバイパスより難しく、しかも日本人の冠動脈も内胸動脈も欧米人よりは若干細いため、日本人の冠動脈手術そのものがやや難しいため、日本の心臓外科医が行った努力は大変なものだったと思います。

それではオンポンプバイパスと比べてオフポンプバイパス手術はどういう点で優れているので良いものは良い!しかしその証明は容易ではないことも しょうか。理論的にはポンプ(体外循環)がある程度リスクとなる患者さんたとえば上行大動脈ががちがちに硬化しているなどの状況ではオフポンプは有利です。この10数年、さまざまな研究がなされました。発表された範囲では手術死亡率には大差がなく、輸血量や入院期間あるいは術後の神経学的異常などがオフポンプで減らせることが示されました。

その結果はオフポンプとオンポンプの両方を多数行った心臓外科医の印象とは少し違うと思います。かつてオンポンプバイパス時代にはハイリスクであったケースにオフポンプバイパスを行うと実にスムースに経過するのです。結局こうしたハイリスク例での臨床研究が不足しているのであろうというのが経験ある心臓外科医の意見です。それを裏付けるかのようにオフポンプバイパスを始めてから、バイパス手術で患者さんが亡くなられることはほとんどゼロになりました。

オフポンプバイパス手術では術者が経験豊かであれば手術の質でもオンポンプバイパスに抗血小板剤を切れるのがバイパス手術の利点の一つです 引けを取りません。それは術後のバイパスの開存率(つまりどれだけ機能しているか)でもオフポンプバイパスは劣っていないことが判明したからです。そうなればカテーテル治療(PCIと略します)に匹敵する安全性と、PCIより良好な長期安定性がオフポンプバイパスにより得られることになります。

しかもオフポンプバイパスの術後は最近のPCI(薬剤溶出性ステントDESを使います)と違ってきつい薬剤(抗血小板剤たとえばプラビックスやパナルディン等)を使う必要がないため、患者さんにとって長期安全性で有利です。たとえばがんがもし発生してもその検査や手術も比較的安全に受けられます。

オフポンプバイパス手術の後。バイパスグラフトがきれいに映っています。患者さんはお元気になりました しかしPCIは創がほとんどないという魅力があります。またほとんどすべての患者さんはまず循環器内科の先生のところを受診されます。それらのため、現時点ではPCIがバイパス手術より数の上で大きく勝っています。

ヨーロッパで行われているSyntax研究(薬剤ステントを用いたPCIとバイパス手術を比較)の3年間の成績が今年中にでます。その結果によってはまた状況は変化するかも知れません。時間とともにバイパス手術の安全性有用性が示されるであろうという見方があります(写真左はオフポンプバイパス後のグラフトの姿、MDCT検査にて)。

もっとも識者の見方はどちらが絶対良いとか悪いとかではなく、個々の患者さんに最も適した選択をする必要なら併用もする、という柔軟で患者目線の方針にあります。

ともあれオフポンプバイパスの進化により患者さんにとって、より安全で確実な治療法が増えたのは間違いないところで、内科外科全体の総合循環器グループとして有用ツールとしてさらに育てたいものです。

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最終更新日時

  • 平成22年 3月12日(金曜日)