心臓手術について

その低侵襲化(より体への負担少なくやさしいこと)へ向けての最近の動きをご紹介します

手術室と体外循環のようすですなお心臓手術や心臓血管手術全般の特徴や概説については 心臓外科・心臓血管外科の手術  の項目をご参照ください。個々の病気や手術につきましてはそれぞれの疾患の項目や  さくいん 等をごらん下さい。

心臓手術はこの40年あまり、体外循環つまり人工の心臓と肺を用いて行われ、安全性が年々向上し、術後長生きやQOL(生活の質)向上を含めて患者さんに役立つ治療となり、発展して来ました。(写真左は手術室での体外循環の風景です)胸骨正中切開を赤い線で示します

心臓に到達するためのアプローチにはかつては開胸つまり胸を肋骨に沿って切開する方法 もありましたが、その後安全確保のために多くは胸骨正中切開つまり胸の真ん中にある骨(胸骨)を縦に二分(もちろん後でがっちり修復します)して心臓に到達する方法(右図の赤いライン)が世界的に主流になりました。

このため、心臓の手術は

1.全身麻酔をかけ

2.胸骨正中切開を行い

3.体外循環(人工心肺)を用いる

というのが標準方法となり、手術の後は元気にはなるものの、比較的大きな創と手術直後は体への負担がある程度はかかる手術として認識されるようになりました。

そこで15年ほど前から3.が見直され、心臓の表面の手術である冠動脈バイパス手術などを中心に体外循環を使わない手術つまりオフポンプバイパス術が工夫され発展しました。現在では冠動脈バイパス手術の大半がこのオフポンプバイパス手術で行われるまでになりました。私がイタリアの心臓手術名医カラフィオーレCalafiore先生に教えて頂いてオフポンプを開始した1999年に、日本冠疾患学会という学会でこの手術(心臓をひっくり返して裏側の血管を縫います)をビデオ講演した時にはどちらかと言えばまだ変わり種手術というような印象をもたれたように思ったのを覚えています。

ミッドキャブ手術の左小切開創を示します同じ心臓手術でも弁膜症手術は冠動脈とはちがって心臓の中に入って治す、つまり一度心臓を空にする必要からオフポンプ手術はほとんど広がらず、むしろ2.の胸骨正中切開を右開胸や胸骨部分切開などでできるだけ小さく目立たない創部にするという方向で工夫がされました。とくに上記オフポンプバイパスと組み合わせたMIDCAB手術(ミッドキャブ)手術(左図の赤いラインが皮膚切開)は10年あまり前に一世を風靡しましたが、心臓の前面にしかバイパスがつけられないので現在は少数になっています。

さらには内視鏡やロボットも併用してより小さな創にする方法手術用ロボット・ダビンチ。世界的には撤退する病院が多く、壁に当たった状態です。今後の改良やコストダウンなどが必要です。も開発されました。それらの小切開手術は手術や患者さんの年齢によってはメリットがありある程度広がりました。ロボット(リモコンのマジックハンドであり自分で考えて動くわけではありません)は時間と費用がかかり、性能もまだ不十分ということでその後下火になりました(写真右は第二世代のロボット)。

また1.の全身麻酔についても、可能なら全身麻酔や人工呼吸を避けられればより回復が速いという観点から試みがなされましたが、これは安全や患者さんの快適さも含めた総合点でまだまだ全身麻酔の利点が大きく、多くの場合は全身麻酔が使われています。

このように心臓の手術をより負担の小さい、安全なものにする努力、いわゆる低侵襲化の努力は続いていますが、ここまでのところ上記3.関係のオフポンプ手術が中心で、2.関係の小切開手術が状況によって使われるというのが現在の状況です。ロボットはより高性能でより小さく安価なものが待たれるのが世界の一般状況です。

創を小さくすることは良いことです。難病を含めた心臓病を確実に治すのは真に大切なことです患者さんの心臓や体を守るという本質的観点からは、心臓の病気の部分を確実に、短時間で治す、そして速く回復できるようにする、さらにその良い状態で安定させることが大切であるのは言うまでもありません。そのために弁形成手術・弁置換手術や左室形成術の改良、あるいは手術中の心筋保護(心臓を守ります)や徹底した止血、合併症の予防などの努力が行われています。これまで心臓手術の名医と言われる人たちはこれらの点が徹底していたわけです。

上記に加えて15年ほど前から

4.カテーテルを用いた手術・治療が心臓手術・心臓血管手術にも入ってきました。ステントグラフトは内側から治せるという大きなメリットがありますが、まだ課題や限界も多々あります。

この治療法はステントグラフトと呼ばれ、とくに下行大動脈瘤腹部大動脈瘤などで発展 し、現在は胸腹部大動脈瘤でも成果を上げつつあります。まだまだ限界や不明な点もあるのですが、高齢者や体力のない患者さんを始め、大動脈が比較的単純な形態をもつところでは活躍するようになりました。日本では井上寛治先生が以前から実績をあげられ(京都にてお世話になりました)、アメリカで実績を上げられた大木隆生先生(現・慈恵医大)らが完成度の高い治療に育てられました。

この流れは今後は大動脈弁をはじめ、さまざまな心臓手術・心臓血管手術で活用されるようになるでしょう。ただしまだまだ不明な点・未完成な点も多く、その発展期には患者さんに迷惑がかからないよう、十分注意しながら慎重に進める必要があります。医療先進国である欧米諸国で、現時点では手術ができないような患者さんを中心にこの新しい治療法が使われているのはそのためです。

このように心臓手術(あるいは心臓血管手術)はその治療成績の改善(要するに、より長生きできる、より元気活発に生きられる)のみならず患者さんの体への負担を下げる、低侵襲化(つまりより快適に、より速い回復が得られる)の努力とともにさらに発展していくものと考えられます。

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最終更新日時

  • 平成22年 7月26日(月曜日)