生体弁とは
生体弁とは生体材料から造られた人工弁で、金属(カーボン)でできた機械弁と比較されることが多いです(写真左は生体弁の一例です)。生体弁の生体材料とはブタの大動脈弁やウシの心膜が多く使われます。写真右下はウシ心膜弁で大動脈弁を置換したところです。
生体弁の最大の特長はワーファリン(血栓を予防するお薬)を飲まずにすむことです。つまり 病院に毎月通って血液検査を受けて、毎日薬を忘れず飲んで、激しい運動は避けて、、、といったさまざまな負担が患者さんにかからなくなるということです。患者さんご自身の弁とほぼ同様の状況ができるわけです。これが機械弁と決定的に違う点です。
しかし生体弁には弱点があります。それは機械弁ほど長持ちしないことです。かつては生体弁の寿命は10年弱と言われる時代がありました。実際初期の生体弁は5-6年あまりで壊れたなどのケースもありました。その後生体弁は改良が加えられ、現代は60代に手術を受ける患者さんで16-18年ぐらいは持つようになりました。この数字は大動脈弁と僧帽弁で違いますし、報告によってもずれはあります。
生体弁が長持ちするようになった理由はいくつもありますが、弁のデザインが改善され、ヒン
ジ(弁尖を支える場所)の設計が生体弁組織にあまり強いストレスや疲労を起こさないようになってから耐久性が改善されたような印象があります。また血液中のカルシウムに弁がやられない等の化学処理が弁を長期間安定させることにつながったようです。写真右はブタ弁で僧帽弁を置換したところです。
一方、機械弁(写真左はその代表例です)は構造的には100年以上もつように設計されていますが、現実には弁付近の組織の増殖のため弁が動かなくなることもあり、10-30年で再手術になるケースも見られます。しかし一般には長持ちするという印象は強いです。しかし現在もワーファリンは一生涯服用する必要があり、生活の質を多少とも落とし、しかも現在なお毎年1-2%は脳出血や脳塞栓などの合併症が見られます。実際、生体弁を使うべきところを機械弁を使い、患者さんが危険にさらされるというケースが全国で見られたため、東京の加瀬川均先生や黒澤博身先生らはじめ仲間で集まり日本生体弁研究会を10年近く前に立ち上げ、生体弁の正しい理解と普及につとめました。
そうした中で生体弁のメリットが次第に患者さんを惹きつけるようになりました。かつて日本の 患者さんは「ワーファリンも血液検査も構いませんから手術はこれっきりにして下さいね」と言われる方が多く、その一方、北米の患者さんは「10年経ったらまた来るよ」と、将来の再手術を恐れず、現在の毎日を楽しく暮らすという雰囲気がありました。最近は日本の患者さんも欧米化して来ているのを感じます。
生体弁の中にもバリエーションが増え、ウシ心膜弁、ブタ弁(ステント付き弁)、ブタ弁(ステント
レス弁)が現在の日本で使えます。それぞれ特長があり、適材適所の活用が大切と思います。写真右はステントレス弁を植え込んでいるところです。ステントがないため柔軟な性質を持つのが見えると思います。
医者あるいは友人として多くの患者さんとお付き合いする中で、生体弁での弁置換術後に脳梗塞・脳出血とか突然死された方をほとんど知りません。機械弁の場合は、そう多くはなくても、ときたまそうした不幸を見聞きします。やはり生体弁は安全、と実感することがよくあります。もちろんこれは生体弁の将来の再手術を安全に行ってこそ本当のトータル安全につながるため、しっかりした再手術戦略も含めてのことですが。
弁膜症の患者さんには極力、弁形成術を完遂するようにしていますが、それが難しい弁の場合、生体弁を選ぶかどうかは極めて大切な問題です。よくご自分のライフスタイルを考えて、弁膜症外科の専門家と十分に話合い、適切な選択をすることが勧められます。
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