5b) マルファン症候群について―きちんと対策を立てれば怖くない

マルファン症候群は遺伝性の結合組織の疾患です。

第15番染色体長腕15q上のフィブリリン遺伝子の突然変異が原因です。

遺伝ではなく純粋な突然変異で発症することもあります。


結合組織は臓器や組織をつなぐ大切な組織ですので、マルファン症候群の患者さんの臓器や組織は圧や張力に対して弱いという傾向があります。


マルファン症候群では結合組織が弱いため血管も瘤(こぶのように大きくなります)になりやすいです結合組織は全身に存在するため、マルファン症候群の患者さんは全身のさまざまな臓器に病気が発生する可能性があります。



心臓や血管も病気が発生する臓器に含まれます。


  大動脈は内側の圧(つまり血圧です)が高いため、徐々に拡大し、動脈瘤(こぶのように広がり ます、左図)になったり、

解離(大動脈の壁が内外マルファン症候群では大動脈が解離(壁が内外に裂けること)も起こしやすいですに裂け、それから破裂します、右図)する危険性があります。

大動脈瘤が破れたり、解離すると命が危険な状態となってしまいます。


弁の組織も弱いため注意とケアが大切ですマルファン症候群では大動脈だけでなく心臓もやられることがよくあります。

とくに弁の組織たとえば僧帽弁を支える腱索というひも状の組織が弱り、伸びるか切れるかして僧帽弁が閉じられなくなって逆流が起こります。

いわゆる僧帽弁閉鎖不全症です。(参照:手術事例1手術事例2

心臓付近の大動脈が拡張して大動脈弁閉鎖不全症になることもしばしばあります。

 

これらの中でも、大動脈瘤(胸部腹部は破れるまでは症状がない場合が多いため、要注意です。

破れれば病院にたどりつくまでに死亡したり全身臓器がやられる可能性が高いため、破れるまでに発見診断することが必要です(デービッド手術の手術事例)。

その一方、大動脈解離は胸や背中に激痛が走ることが多いため、すぐわかります。

ただし短時間で急速に死亡されるケースが多いため、急いで救急車を呼び、病院へ行く必要があります。

救急車はこうした時のためにある、という見本のような病気のひとつです。


まず相談が大切です。その内容によっては検査し、安心できます。もし何かの病気が見つかれば定期健診と早期治療によって安全性は向上しますマルファン症候群の患者さんやご家族からよくご相談をお受けします。

かつてご兄弟とお母様を突然死で失われた方のご相談を最近お受けし、診察と検査の結果、同症候群の傾向はあるものの、大動脈も心臓も大丈夫であることが判明し、安心して帰宅されました。


マルファン症候群の遺伝様式は常染色体優性遺伝ですので、片親が同症候群の遺伝子を一つ持っておられれば、その子供さんが同症候群になる確率は50%もあります。

実際にはそれ以外のファクターたとえば突然変異などが関与し、さまざまな度合や形でのマルファン症候群があります。大動脈の状態はCT等で比較的簡単に調べることができ、長期の安全確保に大きく貢献しています

 

そのため、マルファン症候群の診断や疑い診断を受けた方、あるいはご親戚に同症候群の方がおられる場合は、一度専門家に相談されることをお勧めします。

苦痛ある検査はなく、民間専門病院なら一回の外来で結論が出ます。



とくに心臓や大動脈の定期健診は命を守ります。

動脈瘤も解離も早く発見・診断すれば手術弓部大動脈大動脈基部(デービッド手術の手術事例)、腹部大動脈大動脈解離)によって救命でき、いったん救命できれば、その部の動脈は人工血管で安定するからです。


なお私たちはマルファン症候群の患者さんたちが若い年齢で手術を受けられることに配慮し、ミックス手術(MICS、小切開低侵襲手術、ポートアクセス法など)の導入にちからを入れています。


また動脈瘤がすでに診断されている場合、通常の基準より一段階早く手術をすることが勧め られています。

たとえば腹部大動脈瘤では通常は直径4.5cmから5cmあたりになれば手術適応ですが、マルファン症候群の患者さんでは4から4.5cmで手術を考えれば安全です。

胸部大動脈瘤も同様に、通常の6cmではなく5-5.5cmで手術を検討することでリスクを回避しやすくなります。

大動脈基部の拡張症では一般に直径が5cmで手術適応(アメリカのAHA/ACCガイドライン)とされていますが、同症候群では4.5cmで治すのが安全という報告が増えました。


マルファンネットワークジャパン(MNJ)という患者さんの会があり、著者もコンサルタント(医療アドバイザー)として参加させていただいたことがあります。

活発な勉強や親睦活動の中に病気を克服する強い意志が感じられました。マルファン症候群は将来は予防できる病気になると思います。それまではきちんと健診で安全確保するのが勧められます

                   マルファンネットワークジャパンにつきまして

このMNJを支援するNPO法人である 日本マルファン協会 も患者さん支援の輪を広げる活動を積み重ねておられます。

そこでの質疑応答集(2010)もごらんください。

皆さんよく勉強され、前向きに病気を克服し、人生を打ち立てておられる様子がうかがえます。



将来的にはフィブリリン遺伝子をはじめ、遺伝子治療やより的確な薬の開発によって合併症を予防できる疾患になってゆくものと思われます。

マルファン症候群の患者さんが子供や孫に病気を遺伝させる心配をして結婚や出産で悩まれるという不幸な時代はいずれ過去のものになると私は思います。


さしあたりは定期健診、早期診断と必要なら早期治療でマルファン症候群の患者さんの生命や生活は守られるでしょう。

検査は昔と違ってかなり痛みや苦痛が少なく安全性が高くなっていますので、受けるメリットは大きいです。

なかには自分はマルファン症候群だから大動脈瘤があるに違いないと確信して来られ、検査によってきれいで正常な大動脈であることを知り、よろこんで帰られた方もあります。結果としてうれしい検査になったわけです。

まずは現状を正確に把握することが結局安全と安心につながります。


Heart_dRR
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最終更新日時

  • 平成24年 1月30日(月曜日)