心臓外科の名医とは
心臓外科・心臓血管外科の名医とは、という問答をよく耳にする。心臓外科医(というより外科医)なら誰しも名医になりたいと思うであろうし、そのための努力も皆していると思う。著者もより多くの重症患者さんを助けられる名医を目指して、飽くなき探求を続けるひとりである。しかし現実に名医と言われている人たちはそう多くはない。これまでの海外や国内、国内でも大学病院や国立病院あるいは私立病院、その中でも専門病院などでの経験と、尊敬する恩師や友人たちの姿をもとに考えてみた。
心臓外科・心臓血管外科の名医を支える要因は
1.手術がうまい:うまさの内容には早い、質が高い、生存率が高い、合併症が少ない等などのファクターがある。うまさを支えるものとして、臨床経験量、平素の勉強量や練習量、誰に師事するか、横の交流の多さ、常に反省熟考する、部下や仲間の意見をくみ上げる、何より患者の声や所見に注意するなどが挙げられる。
また周辺部の要因として麻酔の導入時間が短い、手術中の管理がしっかりしている、なども含まれる。さらに言えば麻酔医を、あるいはお互いをうまく育てる腕前ともいえようか。もう一つの周辺部要因として周術期管理がうまい、あるいはその教え方がうまい、なども挙げられる。真の意味での安全管理も重要要素である。また手術の生存率が高く合併症が少ないという要素の中には、あまり術前状態の悪い症例は手術しないなどの患者選択という要素も入る。
リスクの高い症例は手術しないという方針で行くなら、見かけの治療成績は格段に向上する、しかしそれが本当の治療成績を反映しているかどうか、疑わしい。そこでリスク解析が重要となる。
2.チームワークや雰囲気が良い:それは外科医と麻酔医、看護師や技師とのチームワー クが良い・看護師や技師の仕事の質が高い・いつでも動けるなどの要素がある。内科との連携はもちろん重要である。平素から仲間の力が発揮できるような雰囲気づくり、ユーモアのセンス、仲間への愛情が大変重要である。このあたりは欧米では昔から常識であるが、日本でも必須になったように感じる。病院ヘッドとくに経営者の姿勢など、病院の体制も大いに関連する。
たとえば病院ヘッドや経営者が、緊急手術は絶対断らない、という哲学をもつ病院ではその共通の目的に向かっておのずとチームワークができて行きやすい。チームワークを育てる教育努力や親睦努力がなされればより早くチームは出来上がる。一方、病院の指導層がそうした姿勢をもたない状況の時にでも、外科医が献身的に周辺とのコミュニケーションを図り親睦を深め協力を確保するならそれなりに成り立つが無駄は多い。
3.病院のシステム・体制が良い:手術室やICU(集中治療室)あるいは病棟がいつも迅速かつ協力的に動ける、メンバーが固定し気心が知れている、麻酔科がどのような時にもどんな状況でもサポートしてくれる、内科や放射線科その他あらゆる部門がきびきびと気持よく動いてくれる、などなどがある。公務員意識、組合意識は結構だが、勤労者第一主義の病院というのは、患者は第一でないということになり、名医も育ちにくくなる。また手術待ち時間や入院待ち時間が短いなども極めて重要である。
たとえ手術成績が良くても待ち時間が長すぎると、その間の危険性が高くなり、せっかくの手術成績が帳消しになる場合もある(心臓外科医の日記ブログ 2010年1月14日 手術の待ち時間 参照)。ハイリスク患者を断って手術成績を上げるなどは大問題である。外科医が手術で頑張ろうとしても麻酔医の段階で手術を拒否されるような病院では全体が崩れる。
もちろんこれらは誰が悪いとか誰のせいであるなどの論議ではなく(たとえば麻酔医の待遇が 悪いことが真の原因であることもある)、心臓外科や心臓血管外科の名医を支える要因を論じただけのことである。
循環器専門病院や循環器に力点をおいた病院では上記の1.-3.ともなり立ちやすく、とくに私立の施設では一層有利である。患者の支持がなければ病院が成り立たないため、おのずと患者第一主義になり、名医を求める土壌ができるからである。何といっても固定メンバーで熟練度が高くファミリーの雰囲気になっているのは有利である。公立でも多大な予算が得られる施設では名医育成の効率は良いかも知れない。手術数を少なく抑えれば見かけのチームワークは保てるかも知れないが、外科医やチームの成長にブレーキがかかり名医と逆の方向へ進みかねない。
8.心臓血管外科の卒後研修―若い先生方にのページにもどる


