心臓手術―特殊な臓器、特別な配慮と努力が患者さんのために必要
心臓手術も他の外科たとえば胃腸や肺や脳の外科と共通することが多くありま す。
その手術をする臓器に何か良いことができるからこそ、手術の意義や利点が患者さんに対してあるわけですが、同時にいくら良いことをすると言っても、そのために皮膚を切ったり、薬で寝かせたり、多少とも出血させたりとマイナス点も多くあります。
これは心臓だけでなくどの臓器の手術でも共通しています。
心臓手術に特徴的なこととして以下が挙げられます。これがすべてではありませんが。
1.心臓は他の多くの臓器のように一時お休みが成り立たないこと。
心臓は短期間でも休んでしまうと脳その他の臓器に致命的な 打撃を与えかねないこと。
そのため心臓手術で心臓を一時休ませるときは人工心肺(体外循環とも言います)を使う必要がある
2.その人工心肺や出血しやすさのため、手術侵襲(しんしゅう、つまり体への負担)が大きい こと。
とくに人工心肺を使うためには血液が固まらないようにする薬(ヘパリン)を使うため、他の臓器の外科より厳重な出血対策が必要となる
3.他の多くの臓器や組織のように、切除だけで済まないケースが多く、心臓血管外科手術ではほとんどの場合、再建つまり作り直すことが必要。
1.とあわせて、作り直せなければ即死亡につながることが多い
4.1.のため時間が限られる場合が多く、確実さとスピードの 両方が求められる。
心臓血管外科手術では確実さとスピードがなければ破綻を来し死亡リスクが高くなる
こうした特徴から、心臓・心臓血管の手術では確実さとスピードを持つことが必須となり、そのために熟練や日々の考察・勉強・準備・基本練習などが求められます。
症例数や手術数が心臓外科・心臓血管外科で特に強調されるのはこのためです。
経験した症例数が少なければ、手の動きもそれを支える頭の動きも鈍くなりがちで、さらに1000回に1回という稀な問題に出くわしたときに、とっさの解決が図りにくくなります。
ただ数さえこなせれば良いというのではないのですが、質を伴った数(量)が極めて大切というのが世界の常識です。
欧米や豪州はもちろん、中国・インド・台湾・韓国・タイ・シンガポール・マレーシア・インドネシアはじめアジアのほとんどの国々でもこの常識はすでに当然のことになっており、欧米式の医療制度(一病院あたり年間1000例以上の心臓手術をたかだか10名以下の医師・修練医とあとはコメディカルで行う)や教育研修制度が根付いています。
残念ながら日本ではまだまだその世界の常識がわからない方が多く、わかる人たちだけががんばるという構図が進んでいます。
ハートセンターなどの専門施設とくに民間専門施設はこの世界の常識を真摯に追求しやすい環境があり、この国の循環器医療をもっと良くするという気概をもって日夜努力しています。
また患者さんの視点から、上記の1.2.のため心臓手術のために、一次的に体力や心臓の力さえしばし手術前より悪化することがよくあります。
そこを乗り切ったあとは心臓が良くなったのを受けて、全身の体力なども改善していく場合が多いですが。
そのため、心臓手術では患者さんにある程度の体力が残っている状態が必要です。
体がぼろぼろになるまでに、つまりまだある程度お元気なうちにできれば手術しましょうというのはそのためです。
実際、超重症の患者さんの場合、心臓は手術でかなり良くなったのに全身の体力が持たずに結局涙を飲んだつらい思い出が何度もあります。
全身の状態が悪い患者さんは手術しなければ良いという「安全管理」の考えが最近世上で増えていますが、それは助かるかも知れない患者さんを単に見捨てているだけともいえるため単純には賛同できません。
真の安全管理は患者をいかにして守るかというところから生まれるものと思います。
もちろん考える時間もなく、急に危篤状態になるタイプの病気では患者さんも悪くなるまでに病院へ行こうというわけは行きませんが、
慢性の心臓病ではある程度体力があるうちに心臓手術を乗り切るという考え方はしばしば患者さんを救います。
それもあってそうした理解と患者ー医療者の間の緊密なコミュニケーションが大切なわけです(要するにどしどし相談!です)。
心臓手術のあと病気の悪循環が断ち切れた患者さんはずいぶんお元気になられ、もとの年齢や病気の内容にもよりますが、長年お元気に暮らされる方が多いです。
つまり心臓の手術では頑張りがいのあるケースが多くあるわけです。
さらに、心臓手術を患者さんにとって、よりやさしいものにしようとする努力、いわゆる低侵襲手術、ミックス手術(MICS)、ポートアクセス法などが進歩を続けています。これからの展開にご期待ください。
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