④大動脈弁形成術は有用?―若い患者さんほど有用、中年の方も
Q: 大動脈弁の形成手術はどのくらい有用なのですか?
大動脈弁形成は患者さんに有利と判断できる時に積極的に行っており、それだけに安定しています(弁膜症 手術事例8)(手術事例、10代の患者さん)。
ただし大動脈弁の形成はしばらくは良くても長持ちするかどうか不確実なことが知られており、僧帽弁ほどの威力はないというのが世界的認識となっています。
そこで
弁の所見や患者さんの年齢などから、「これは有利」と判断できるときに限定して行っているわけです。
近年は生体弁の耐久性が改善され、高齢者の患者さんはもちろんのこと、中年の患者さんでも長持ちする傾向にあります。
なので、大動脈弁形成術の位置づけが不安定になっているのです。
しかし若者とくに10代の患者さんでは骨の成長のためカルシウムの利用が活発なため生体弁が長持ちしづらいのです。
そこで大動脈弁形成術の意義は大きいものがあります。
ワーファリン(血栓予防薬)なしの、のびのびした青春時代を送れるからです。
(参考:お便り15: 大動脈弁形成術を受けられた患者さんのご家族からのお便り)。
20代ー30代の患者さんも10代に準じたメリットが得られます。
これらの若い年齢ではまだまだ生体弁は長持ちしづらいことと、機械弁ではワーファリンを数十年間飲まねばならないというストレスが大きいからです。
(参考:お便り31: 大動脈弁形成術の患者さんからのお手紙)
いま一つの選択肢として患者さんご本人の肺動脈弁を取り出してそれを大動脈弁として使うロス手術があります。
しかし、これは日本では肺動脈弁の代わりに入れるホモグラフト(弁の移植)が入手困難なため子どもや重症感染症 (たとえば大動脈基部膿瘍、大動脈弁の付け根が感染して膿がたまる重い病気です) がらみなど、特殊な患者さんに限られます。
また20年以上昔から患者さんご自身の心膜つまり心臓の周囲にある膜をグルタルアルデハイド(ホルマリンに近いもので細胞を死なせ安定させます)で処理したもので大動脈弁全体を取り代えるという方法があります。
これは弁置換の一種で、弁形成とは言えず(多くの報告ではreplacement (置換)や extention (弁の延長)あるいは reconstruction (再建)と表現)、これまでの欧米豪のデータでも残念ながら長期成績が悪く、主にこどもや30歳代の若者を対象としています。
若年者では生体弁の成績が悪いから生まれた技術でした。
しかし大人とくに60歳を超える高齢者では生体弁は20年近い耐久性が報告されており、よほどの弁形成でないと正当化できないのです。
有名な欧米の心臓外科CTSネットの編集長もこの懸念を表しています。今後さらなる改良が必要で、関係の先生方の奮起を期待します。
心臓外科の歴史の中で大動脈弁はつらい過去を持っています。
40年前にイオネスクIonescu心膜弁が登場したときには皆、優れた長期成績を期待しました。
しかしこの第一世代の心膜弁はたったの3-4年でダメになるケースが続出し残念な結果となりました。
弁の縫い目を守り、かつグルタルアルデハイドに加えて特殊処理を施した新世代の心膜弁は格段に長持ちするようになりましたが、そういうつらい過去があり、数年前にはシナー弁という自己細胞が生着するという弁で術後突然死が続いた苦い経験が欧米ではあります。
縫い目の補強も特殊処理もしない昔ながらの自己心膜法が良い長期成績を出すかどうか不明です。
それもあって欧米ではSolo弁という弁尖のみ置換する生体弁が注目を集めて普及しつつあります。
結局、弁形成術が適切な状況(若年者など、中年の方も)ではそれが望ましく(ただし慎重に)、
弁形成ができない場合の人工弁の選択については大動脈弁の場合にも機械弁(長持ちします)と生体弁(ワーファリン不要です)の2つがあり、通常はこの中から選ぶ必要があります。
(機械弁と生体弁の比較につきましては僧帽弁の項をご覧ください)。
なお大動脈基部拡張という病気の場合は、経験豊かなチームならデービッド手術などの自己弁温存手術によって人工弁が回避できることが多いです。
今後の明るいニュースとしては折りたたんだ生体弁をカテーテルで植え込むTAVI(タビ)という方法で、将来この方法が安全確立すれば、生体弁が壊れたときに、その生体弁の中に新たな弁を植え込むことで再手術が回避できる可能性がでてきたことです。
これらも含めて大動脈弁膜症治療は、慎重に行えばさらに進化するでしょう。
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