②僧帽弁形成術について
僧帽弁の患者さん、とくに僧帽弁閉鎖不全症(血液の逆流のため心臓が無理をします)に は前述のようにさまざまな原因やパタンがあります。
それらを踏まえて適切な手術を組み立てていきます。
僧帽弁閉鎖不全症の手術には弁形成手術が第一選択となります(弁膜症 手術事例1)。最新の日本循環器学会のガイドラインでも、弁形成手術は症状がない患者さんにさえメリットがあり弁形成できる施設では手術適応(つまり手術する意義がある)とされています。
弁形成手術では患者さん自身の弁をいろんなテクニックを用いて修復し(たとえば四角切除、三角切除、エッジ接合、ゴアテックスの人工腱索やダクロンの硬性リングや軟性リングなど)、人工弁を使わずにすみますので、人工弁にまつわる問題が回避できます。
たとえばワーファリン(血栓予防のためのお薬で出血などの弱点があります)が不要になったり、将来の再手術が避けやすくなるなどのメリットがあります。ワーファリンが避けられるというのは安全上も生活の質でも大きなメリットがあります。
私達は前尖病変やバーロー症候群など(瘤化しきれいに作動しづらくなります)などの複雑な弁形成手術も積極的に行っています。そして僧帽弁閉鎖不全症の患者さんの殆どが弁形成手術で元気になっておられます(弁膜症 手術事例: やや複雑な弁形成、手術事例: 複雑弁形成)。
同様にマルファン症候群の患者さんで腱索が軒並み伸びて壊れている場合も修復できるようになりました(手術事例: 前尖の完全逸脱を形成したマルファン症候群の患者さん)。
海外で修行のあと日本国内での300例以上の弁形成術の経験のなかで、高齢の方や最近では激しいスポーツマンや近い将来妊娠・出産希望の若い患者さんが来院されることも増えました。弁形成手術が成功することは、妊娠・出産ができるという意味になり、心臓外科医の極めて重要な貢献と思います。(手術事例: 弁形成で妊娠可能となったマルファン症候群の患者さん)
弁形成手術によって格闘技を含めたスポーツや妊娠・出産あるいは危険な職業への復帰も可能となりました。(弁膜症 手術事例4) 若い患者さんで先天性の僧帽弁閉鎖不全症が悪化して妊娠希望して僧帽弁形成術を受けられるというケースが少なくありません。弁形成術によってこそ希望が叶えられるため、私たちもあらゆるノウハウを駆使して弁形成術を完遂するよう頑張っています。(手術事例 先天性僧帽弁閉鎖不全症)
メモ:この手術のルーツはパリのカーパンチエCarpentier先生にあります。旧フランス領のアルジェリアからの患者さんがパリに多数来られて、弁置換術を行っても、アルジェリアに帰ればワーファリンのコントロールがうまくできず危険という状況から1970年代に弁形成術は生まれました。まず四角切除や弁輪形成が確立しました。
術後心機能の良さから注目を集め、スペインのDuran先生が柔軟リングなどで術式を発展させられ、その後1980年代後半からトロントのDavid先生やクリーブランドのCosgrove先生らが活躍しました。ゴアテックス人工腱索が開発されたのもこの頃です。
さらにライプチヒのMoore先生やニューヨークのAdams先生らが改良を加えて現在に至ります。もちろんその間に多数の優れた先生方がさまざまな改良や検討を重ねられ、術式は磨かれて行きました。
私は1980年代後半から1990年代前半にかけてDavid先生に6年半かけて教えて戴きましたが、その後上記のどの先生にもお世話になり、心臓外科の歴史の一部を見せて頂いたような気がします。
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