10) 心筋梗塞後の心室中隔穿孔 VSP―急いで治療しないと危険な状態
心室中隔穿孔(VSP)は心筋梗塞のあと、左室と右室を隔てる心室中隔に穴が開く病気で、そのままでは多くの患者さんが短時間で死亡に至る、重篤な病気です。
かつてはこの病気のために手術しない場合はもちろん、手術しても大半の患者さんが亡くなっていました。
この心室中隔穿孔 VSPに対して私たち が1980年代の終わりごろ、Tirone David先生のご指導のもと、トロントから発表した術式 (心筋梗塞部除外法 (exclusion法) 、虚血性心疾患・手術事例7 )が世界中で用いられており、本家本元 の誇りをもってこの原法をさらに改良して優れた成績を上げています。
左図はオリジナル術式を発表した論文の図を日本語仕様にしたものです。(英語論文#14をご参照)
この心筋梗塞部除外法の特徴は、心筋梗塞で開いた穴を閉じに行って組織が裂けてかえって悪化したという昔の経験を活かし、心筋梗塞を遠巻きにカバーし、結果として穴(穿孔部)を塞ぐようにしたことです。
この方法を当時の恩師の名前と一緒に Komeda-David法とか David-Komeda法と呼んでくださる方が多いのは光栄なことです。
右図がその模式図です。
心筋梗塞部を避けて、VSP穴には触らず、結果的に穴を閉鎖するわけです。
現在パッチの材質や形を工夫し、パッチの縫合線に力がかからないよう、左図のようにサイズに余裕のあるパッチをデザインしています。
毒性のあるGRF糊をできるだけ使わず、また2枚目のパッ チを弁状に活用してより確実に穴をふさぐようにしています。
これらの工夫によって弱い心筋を守りつつ修復することが大切と考えています。
今後のさらなる展開が期待される領域です。
さらに内科の先生方のご尽力による心カテーテル治療(PCI)の進歩を受けて、心筋梗塞のあと早い時期に冠動脈の流れが取り戻せたケースでは左室の損傷が軽く、心室中隔に穴だけが開いているというケースも見られるようになりました。
その場合は患者さんの状況に応じて右室経由で穴だけを確実に閉じるタイプの修復も行っています。
右図のように右室前壁を小さく切開し、ここから心室中隔穿孔を見つけ、その穴越しにパッチを左室へ入れて、右室側のパッチと合わせてサンドイッチ状にして穴を閉鎖します。
その場合でも、梗塞をできるだけ除外するという基本コンセプトはできる限り守るようにしています。
穴だけ閉じれば良くなるという患者さんもありますが、そうでないケースが多いからです。
またこうした方法を次世代に伝えるべく、ウェットラボや教科書・講演その他の方法で、この手術を若い先生方に指導するようにしています。
心室中隔穿孔の治療や手術では迅速あるいは的確なタイミングが大切です。
患者さんはあっと言う間に状態が悪くなります。
開業医の先生方や内科・循環器内科の先生方のご協力を得て、タイミングを逃すことなく早期治療することでより治療成績を改善したいものです。
患者さんやご家族が喜んで下さるのがうれしいのはもちろんですが、平素お世話になっている循環器内科の先生方にこうしたケースで恩返しができるのは、二重の喜びです。
メモ1: 急性心筋梗塞直後は心臓や心筋も不安定で、とくに梗塞部やその付近の心筋は大変弱い状態です。
押せばグジュッと裂けるような弱さがあります。
そのため心室中隔穿孔などの心筋梗塞直後の手術は1-2日でも3-4日でも時間をおけば縫いやすくはなります。
ただし心不全が強い状態で何日か待てばその間に肺炎を併発したり腎臓や肝臓がやられてしまうこともあり、結局なるべく早くという方向で進歩しつつあるのが現状です。
メモ2: 心室中隔穿孔の患者さんは心筋梗塞のあと数時間から数日後に急に穿孔が起こることが多く、急に血圧が下がったり息苦しくなったりします。
聴診であらたな心雑音(全収縮期雑音)が聴こえれば直ちに心エコーを撮って確認します。
心室中隔穿孔があれば左室から右室へ血流(シャント血流)が見られます。
これで診断が確定し、通常はただちにIABPという補助のポンプを入れて開始します。
それによって心臓と全身がしばし守られます。
それと同時に心臓外科医と相談し、手術の検討を速やかに行います。これらによって患者さんが救命できる確率を上げることができます。
短時間で的確な処置+適切な心臓外科医を選ぶこと、これで 有利に運びます。
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