7. 病院や医師の選び方 (セカンドオピニオンも含めて)
Q: 安心して手術を受けるためには、どれくらいの症例数が必要でしょうか?
A: 個人の症例数として年間最低100例、理想的には200例を目安と考えればよいでしょう。年間実績のほかに注目したいのは、医師個人の通算(累計)実績数です。大手術・難手術などには1,000例は欲しい。数多くの経験を重ねていれば、さまざまな状況に対して適切な手を打てるからです。手術の技術や治療の質を上げるためには量が伴うという面もあります。
症例数以外では、死亡率という判断基準があります。当然、低いほうが望ましいです。ただ、患者さんの状態とか疾患の程度などでリスクが変わりますから、緊急や重症の手術ばかり手がけている病院では、その率が高まります。逆に、簡単な手術を主にやれば死亡率は一見低そうに見えます。
このため、日本心臓血管外科学会で、患者さんのリスクを判断するデータベース計算ソフトを作っています。そこで示された死亡率と、受診した病院の実績を比較してもらうのもよいでしょう。 症例数にしても死亡率にしても、数だけにとらわれると本質を見失う恐れがあります。いたずらに数だけを稼ごうとすれば、そのひずみが患者さんのための研究や若手の教育に来るかも知れません。総合的に考える必要があります。
また、病院全体の立派さと心臓外科の立派さは別であることもあります。建物が大きくても心臓外科の機能は低いこともあり
ます。看護師さんや事務員さんの姿勢・態度から病院の本質が見えることもよくあります。病院や医師を選ぶときには、レッテルでなく内容本位で考えることが大切でしょう。
Q: PCIと比べて傷痕が残る、回復に時間がかかるといった外科手術(冠動脈バイパス手術)の短所をしのぐ利点は?
A: 分かりやすく言えば、外科手術のほうが長期成績が良いということです。 血管内にステントを埋め込むPCIはバイパス手術に比べて傷も小さくやさしい治療に見えるでしょうが、長期的には、死亡率などで外科手術のほうが良い成績を収めているのです。
2008年1月には多数の血管に病変がある重症例について、外科手術の優位性を示すデータが米国の超一流誌で発表されました。 使用する部位にもよりますが、人間の体にとって「異物」であるステントの埋め込みは一時的に良くなっても、長期的には厳しいことを外科医は経験的に学んでいます。
例えば、弁膜症の外科手術で用いる機械弁(金属)には40年以上の歴史がありますが、どんなに丁寧に長期ケアをしても脳梗塞が毎年1~2%の割合で起こります。血行再建療法では、体となじまない異物であるステント(金属)よりも、自らの生きた血管を用いる冠動脈バイパス術のほうが予後や安全性の点で優れているのです。
ただし、誤解のないように言えば、PCIをはじめとする内科的治療の利点もたくさんあります。同じPCIでも超一流のセンターや内科医がやれば結果も違ってくる場合があります。黒か白かではなく、その患者さんにとって最善の策は何かを一緒に考えて決める姿勢が大切であると思います。
Q: 術前のインフォームドコンセントでは、どんなことを聞けばよいのでしょうか?
A: まずは、医師個人や病院のこれまでの実績を聞くことです。昨今はさまざまなデータを用意している病院や施設が多いので、それらのなかから、関心のある項目について、詳しい説明を受けることです。 その際には、自分の受ける手術に対する世間一般の成績と個人もしくはチームの成績の2つを尋ねてください。そうすれば、その病院または施設の水準を推し量ることができるでしょう。 次に、外科手術に対して、内科的治療を選択した場合の予想される成果について尋ねてください。この場面で、外科手術に対する優位性や安全性などの利点も説明されると思います。 そのうえで、内科的治療よりも手術のほうが良いと医師が確信する理由を尋ねてください。
Q: 手術の対象となる代表的な病気と現状を教えてください。
A: 手術の対象となる代表的な病気として挙げられるのは「弁膜症」「心不全」「大動脈瘤」「虚血性心疾患」の4つです。
「弁膜症」で手術が必要といわれた場合、僧帽弁閉鎖不全症では、ほとんどのケースで弁形
成手術が可能です。弁形成手術が難しい場合、60~65歳以上の方や、若くても妊娠出産や激しいスポーツを希望される方にはブタやウシで作った生体弁による弁置換手術という選択もあります。高齢者の大動脈基部拡張などでは、ステントレス弁が活躍する事例もあります。
「心不全や心筋症」で、薬物療法よりも明らかに有効と考えられる場合には原因治療(たとえば虚血にはバイパス手術など)および左室そのものには左室形成手術を行い
ます。この手術には、バチスタ手術、ドール手術、セーブ手術、オーバーラップ手術などがあります。重症では普通の心臓手術よりもリスクが高まるため、手術の利点と弱点を慎重に見極めることが大切です。
「大動脈瘤」のうち、上行大動脈瘤や弓部大動脈瘤の治療成績は外科手術のほうが良いの
ですが、より広範囲の場合には、内科や血管外科の先生方と協力して、カテーテルで行うステントグラフトとの使い分けや併用を行います。大動脈基部手術ではデービット手術などの自己弁温存という優れた術式もありますが、10年未満しかもたないケースでは、生体弁のほうが良いこともあります。年齢によっては、機械弁ベントール(ベンタール)手術が長期的に有利というケースも少なくありません。
「虚血性心疾患」を対象とする冠動脈バイパス手術では、人工心肺を使わないオフポンプ手
術が中心。用いるグラフトの選択が肝心です。動脈グラフトはうまく使えば大変有効ですが、なんでも動脈グラフトにすると時に無駄遣いが生じ、将来新たな病変が起こって万一の再手術のときに使える動脈がないということも起こります。やはりその患者さんの状態に応じたキメ細かい対応が大切です。
Q: 安全な手術を受けるために、どのような基準で医師を選べばよいでしょうか?
A: 理想的には、自分がこれから受ける治療に対して、最良の成果を出してくれる人を選ぶことです。それは肩書きよりも内容や実績本位で選ぶということです。重症例や難度の高い手術であるほど、その病気に精通した経験豊かな専門医を選ぶべきなのです。
昨今は、患者さんの志向が二極化していて、お店に例えるならば、コンビニエンスストア派と専門店派に分かれてきているように思います。コンビニ派は家の近くの病院を重視し、病院を信じ切っておられるともいえます。実際、年配の患者さんほど、自分のことよりもお見舞いや付き添いが大変だからという理由で、地理的な条件を気にされるようです。 一方、専門店派は自分が納得できる医師や病院を探してどこへでも行くという信念をもって行動されます。医者に専門店派が多いのはそのほうが安全と知っておられるからです。
私のお勧めはコンビニ(近くの小さな病院や医院)と専門店(ハートセンターのような専門病院)とデパート(大きな総合
病院)をうまく使い分けることです。それは一般の買い物と同じです。ちょっとした日用品でしたらコンビニは便利ですが、大きな買い物には不向きです。多少遠方でも専門店・専門病院では専門領域には大変強く、小回りが利いてしかも職員が熟練しているため質も高く、一度の受診でその日の検査結果を見ながら相談ができることが多く、この点で一部の大病院のように初診に検査に説明にと何度も外来に来なければならないところより便利さでも有利です。デパートは普通の品物は何でもあるためいろいろ買いたい場合に適します。医療でいえばがんなどの重い病気をいくつももっておられる患者さんの場合です。
さらにお勧めするのは患者さんとしての情報量を増やすことです。無論、質の良い情報です。今日では、ホームページや新聞、雑誌などに情報があふれていますが、複数の情報に触れていれば、おおよその傾向がつかめるはずです。外科手術のことを内科の先生に聞いてみるのも一法です。
あふれる情報を無批判に鵜呑みにしないで、選り分けることが大切でしょう。そして、直接医師なり病院なりにあたってみることです。質問は遠慮なくすべきですし、良い医師はそれを不愉快には思わないものです。納得できないときやよくわからないときはセカンドオピニオンを他施設で求められるのも良いでしょう。
(この記事は、「迷ったときの医者選び 東海」 (角川SSコミュニケーションズ2008) 外科手術について内科医師に聞くのも一法 (米田正始) から抜粋・補足・改変しました)


