先天性心疾患(主に成人期)
先天性心疾患
先天性心疾患につきましては、私たちは青年期・成人期に達した患者さんを中心に治療いたしております。
ただし小さい患者さんでも病気が心筋症・心不全などの成人と同様の疾患の場合はお役に立つことがあります。
いずれの場合でも小児循環器科や小児心臓外科のエキスパートの先生方と協力して複数の視点でベストの治療を求めるようにしています。
以下に成人先天性心疾患の立場から治療している疾患をいくつかご説明します
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大動脈弁疾患(大動脈二尖弁による大動脈弁閉鎖不全症や狭窄症)
大動脈二尖弁(通常の大動脈弁は可動部分が 3つありますが2つになる病気です)100人に1人の割合で起こる病気と言われています。弁が狭窄(狭くなる)したり閉鎖不全(逆流します)になったり、感染性心内膜炎(ばい菌が弁や心臓の中で繁殖して危険な状態になります)を起こすことが少なからずあります。
通常の大動脈弁狭窄症(胸痛や失神、心不全が出現したり弁口面積が0.75平方cm以下になるなど)や閉鎖不全症(症状や高度逆流、左心室への負荷所見など)と同様の基準で手術を決定しますが、二尖弁の患者さんは大動脈壁が一般の方より構造的に弱いことがわかっており、大動脈弁に続く上行大動脈が拡張しておればその程度や所見に応じて対策を立てることも必要となっています。それによって将来の大動脈瘤の出現や破裂などを予防しやすくなります。マルファン症候群やエーラーダンロス症候群などの結合組織疾患に準じた対応が安全につながるでしょう。
大動脈二尖弁の閉鎖不全症では弁形成が可能な場合がしばしばあります。弁そのものがしっかりしている場合、若い患者さん、たとえば10代―20代の方ではとくに、弁形成手術が可能なばあい行うのが良いと考えます。この年齢の方では機械弁+術後ワーファリンの組み合わせは生活上(とくに学校生活上)不便がありますし、生体弁では10年ももたない可能性があり、弁形成術のメリットが見えやすいからです。二尖弁に大動脈弁形成を行い、10年という長期間患者さんを守れているケースを示します。大動脈弁形成症例
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心房中隔欠損症(ASDと略します)
心房中隔欠損症(ASD)はよくある病気のひとつで、長い間あまり強い症状がなく、心臓の雑音も小さいことなどのため学校検診などで発見されず成人期ときには50代―60代になって病院にこられることがまれならずあります。
40歳を超えますと心不全や心房細動あるいは運動時息切れなどのためQOL(生活の質)の低下などが起こります。手術なしで50歳に達するのは半分で以後も年間6%の死亡率があるとのデータもあります。60歳を超える患者さんでもしばしば手術適応となるのはこのためです。
ASDの穴をとおる血液の量が多い時(肺を流れる血液の量が全身を流れる血液量の2倍以上になるとき)や、穴が小さくても右心房から左心房へも血液がもれている時(脳梗塞などが起こりやすくなります)は手術などの治療の対象となります。
最近はカテーテルをもちいてこのASDを閉じることもありますが、ASDのタイプや位置などの制約があり、かつ不確実閉鎖となることもあり、長期成績がまだ不明です。
一方手術は傷が残るという弱点はありますが、安全性が高く、確実に治せるという利点、さらにしばしば合併する三尖弁閉鎖不全症や僧帽弁閉鎖不全症あるいは心房細動・右房拡張を高い確率で治せるという利点があります。三尖弁や僧帽弁は弁形成手術で治します。私たちはとくに心房細動の期間が長期におよぶケースでの治療に力をいれ、必要に応じて心房縮小メイズ手術を使用し、心臓の機能や除細動率を上げています。
やはりその患者さんの状況に合わせたアプローチが重要といえるでしょう。なお手術はここまで100%の成功率で来ていますが、手術前から他の病気を合併した患者さんが増えたことと、心臓を開ける手術だけに油断なく慎重にていねいに進めなければならないという意味では他の心臓手術と同じ心構えで手術しています。
なおエプシュタイン病(Ebstein病)に合併するASDにもケースバイケースで対応しています。右室機能と左室機能およびサイズ、ASDでのシャントの方向と量、肺高血圧の存在有無と程度、などなどを勘案してASDや三尖弁の形成や置換あるいは不整脈手術などを考慮します。先天性心疾患外科(こどもの心臓外科)の専門家とタイアップして治療にあたります。
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心室中隔欠損症(VSD と略します)
心室中隔に穴があいている病気でその穴の位置によって4つのタイプ(膜様部中隔近傍欠損、漏斗部中隔欠損、筋性部欠損、流入部欠損)に分かれます。
穴が中かそれ以上のサイズであれば手術で穴を閉鎖します。穴をとおる血液の量が多いときや、左心室に負担がかかっているとき、手術のあとでもどりそうな肺高血圧があるときなどがこれに該当します。
穴が中ないし小の場合は自然に閉鎖することが多いため直ちに手術治療の対象にはなりません。この小さめの穴が成人になっても閉鎖しなかったケースが私たちの治療の対象になっています。
VSDの位置が高い場合、大動脈弁が逸脱して大動脈弁閉鎖不全症となることがあり、大動脈弁形成手術や弁置換手術の適応になることがあります。
またVSDの穴が小さい場合、感染性心内膜炎(IEと略します)が起こることがあり、注意が必要です。もしIEが発症すればたとえ抗生物質などのお薬で治っても再発の危険性が高いというEBM(証拠)もあり、実際IEになって初めて手術を決断されたケースを複数経験しています。
いずれの場合でも安全に対処できていますが、大きな手術になればリスクは多少とも上がるのが普通ですから、あまり無理に手術時期を遅らせないという配慮も安全上大切と考えます。
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動脈管開存症
動脈管開存症は胎児のころに活躍していた血管が生まれてからも残ることで起こる病気です。
動脈管開存が大きければ心不全や肺高血圧などの危険な状態になりやすいため手術を行いますが比較的小さい動脈管でもそのままでは感染性心内膜炎になるリスクがあるため手術して治すことが普通です。
治療はカテーテルを用いて内側からコイルを詰めて動脈管を閉鎖する治療が進歩しつつありますが、手術も子供の成長を考慮してなるべく小さな傷で治せるような工夫(小切開、クリップ、胸腔鏡など)がなされています。
動脈管とはもともと消滅していく運命にある臓器ですので、年々弱くなって行きます。患者さんの年齢が30歳を超えますと動脈管に石灰化が生じ、50歳を超えると組織そのものがより弱くなるため、単に動脈管を糸などでくくって閉じるよりも、体外循環・低体温を用いて動脈管の穴(入口)を確実に閉じるのが安全上勧められます。私たちは工夫を重ねて安全に、比較的軽い低体温で少ない侵襲(体への負担)で手術するように心掛けています (症例・大人のPDA)
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肺動脈弁狭窄症
肺動脈弁が狭くなる病気で、狭くなった部位の位置から弁性狭窄、弁上狭窄、弁下狭窄の3つがあります。弁上狭窄や弁下狭窄は他の心臓病と合併することが多いです。
狭窄が高度では突然死の危険性もあるため早期に治療が必要ですが、中等度以下では症状も軽く、幼児期以降に治療することが多いです。中に成人になってから治療を受けるケースがあります。
治療はバルーンを用いた肺動脈弁裂開術が行われ、それが奏功しない場合に外科手術が行われます。手術では体外循環下に弁を切開して開きやすくするか、弁の状況によっては人工弁を考慮します。
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左室緻密化障害
心筋症・心不全のページをご覧ください。この病気は長らく知られない病気でしたが、近年研
究が進みました。内科治療(たとえば心不全に対する利尿剤やARB・ベータ遮断剤などのお薬)では対処できないときに外科手術ができるようになりつつあります。
この病気の中で比較的軽症の患者さんが成人に達し、そこで診断を受けておられるものと思います。もとは比較的軽症の緻密化障害であっても、診断時には心不全や脳梗塞などを発症しておられることが多いですが。重症緻密化障害の患者さんは幼少時にお亡くなりになっているケースも多いようです。
私たちはこの病気に対する左室形成手術成功例を世界で初めて報告しました(英語論文のページをご参照ください)。心不全と左室内血栓をパッチ形成することで同時に解決する努力を続けています。
内科や開業医の先生方とも連携し、この病気への理解を深めることで、早期発見・早期治療し、必要なら大きな問題が起こるまでに手術で治すことを提唱しています。
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拡張型心筋症(特発性)
心筋症・心不全のページをご覧ください。特発性拡張型心筋症や、心筋炎の後遺症としての拡張型心筋症などが対象となります。
なお小さいこどもさんの拡張型心筋症でも拡張が高度であったり、心筋がやられている部位がより明確なケースでは大変良くなることを経験しています。
そうしたケースでは以前から小児科・小児心臓外科の専門の先生方と協力して治療にあたるようにしています。多角的に検討し治療することが安全と成績向上につながると思います。
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バルサルバ洞瘤
大動脈の根元の部分(心臓に近いところ)のポケット状に膨らんだ部分(左図で「バ洞」と示します)がバルサルバ洞ですが、これが瘤(こぶ)状に拡張したもので、一番多い右冠動脈洞のバルサルバ瘤は通常右室に破れ、次に多い無冠動脈洞のバルサルバ瘤は右房に破裂します。
破裂口が大きいと胸痛や呼吸困難、心不全が急に出現します。その場合は緊急手術が必要なケースもあります。手術では体外循環下に破裂口を直接またはパッチで閉鎖し、必要に応じて大動脈弁の形成などを行います。またそれ以外の病気(心室中隔欠損症など)が合併している場合はそれらも併せて修復します。
手術のリスクは状態が落ち着いているときの手術であればたとえ大動脈弁の形成や置換が必要なケースでもそう高いリスクではありません。年齢や他の内臓疾患にもよりますが、1-2%以内のことが多いです。
しかしすでにショック状態で人工呼吸器に長く乗り、肺炎を併発したり他臓器にも障害が起こり、となればリスクは上がります。早目のご相談が患者さんにとって有利な展開に結びつきます。
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冠動脈ろうおよび瘤
冠動脈ろう は冠動脈造影検査を受けた患者さんの0.2%に見つかる比較的稀な病気です。その3割に冠動脈瘤を合併しています。冠動脈ろうを通った(シャントと呼びます)血液の量が多ければ心不全・心筋虚血(狭心症とよく似た状態)の症状が現れます。また感染性心内膜炎も起こりやすいとされています。心不全やシャント量が多ければ、あるいは瘤破裂などが起こりそうな場合は外科手術の適応となります。
私たちはできるだけ冠動脈ろうの入口と出口を閉じるだけでなく、瘤そのものを閉鎖してシャントを解消するようにしています。可能な限り体外循環を使わないオフポンプバイパスの方法で手術しています。
冠動脈瘤は川崎病の後遺症として起こり得ることが知られています。瘤や合併する冠動脈狭窄のために手術が役立つことが多々あります。
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大動脈弁下狭窄症 (IHSS)
左心室の出口付近からトンネル状に狭くなり、僧帽弁閉鎖不全症も合併しやすい。狭窄(狭くなること)の形が膜様であればそれを切除し、適宜付近の異常心筋も切除しますが、繊維筋症であれば異常心筋を広く切除し、必要があれば大動脈弁の形成または置換を行います。
この病気には僧帽弁前尖の収縮期前方移動(SAMと呼びます)と僧帽弁閉鎖不全症が合併することがよくありますが、異常心筋切除手術により僧帽弁は自然に改善することが多いです。 (IHSS症例)
トロント総合病院にはこのIHSSの専門家と成人先天性心疾患の専門外来があり、毎週のようにこの手術を行っていたため多数の症例をみずから経験できました。このノウハウを活かした手術を行い、予後の改善に努めています。実際日本での個人的経験でも50代60代の患者さんも少なくなく、病気はこどもの病気でも患者さんは幅広い年齢にわたることを実感しています。

