大動脈弁
Q: 大動脈弁の病気ではどんなタイプがありどんな手術がされるのですか?
大動脈弁の患者さん(弁が狭くなる大動脈弁狭窄症や弁が閉じなくなり逆流する大動脈弁閉鎖不全症)の場合は、大動脈弁閉鎖不全症や大動脈基部拡張などのケースを中心に弁形成できるケースもありますが、まだ長期間の成績が確立しておらず生体弁の方が有利というデータも多く、安全確保の観点からは現在も弁置換術が主流です。
Q: 大動脈弁狭窄症ではどんな注意が必要ですか?
大動脈弁狭窄症では症状(胸の痛みや失神発作など)が強くなってくると突然死の危険性もある危険な病気です。もし心臓が止まり救急隊が間に合っても、心臓マッサージ・心肺蘇生が効かないことでも知られています。心臓の出口にある大動脈弁が狭いため、心臓を押しても血圧がでにくいからです。
その一方、無事手術を受ければ、そのあとの予後は大きく改善しますし、手術の危険性そのものも低くなりました。
私たちの経験の中には手遅れと言われて心臓がほとんど動かない状態で手術し、正常まで戻った患者さんや、ショック状態から人工呼吸器や補助循環に乗り、それから搬送され手術し、長期生存を得た高齢者の患者さんもあり、決して見捨てるべきではありません。
Q: 大動脈弁閉鎖不全症ではどうですか?
大動脈弁閉鎖不全症では左心室(左室)に負担がかかり左室が拡張し大きくなり、次第に力を落とします。左室がかなり悪くならないと症状が出にくいことがあり、要注意です。極端に左室が大きくなったケースでは左室形成手術などを併用して乗り切ったこともありますが、安全上勧められるのは左室があまり悪くなりすぎないうちにゆうゆうと手術で治すことです。
Q: 大動脈弁の形成手術はどのくらい有用なのですか?
大動脈弁形成は患者さんに有利と判断できる時に積極的に行っており、それだけに安定しています(弁膜症症例8)。ただし大動脈弁の形成はしばらくは良くても長持ちするかどうか不確実なことが知られており、僧帽弁ほどの威力はないというのが世界的認識となっています。そこで弁の所見などから有利と判断できるときに行っているわけです。
いま一つの選択肢として患者さんご本人の肺動脈弁を取り出してそれを大動脈弁として使うロス手術がありますが、これは日本では肺動脈弁の代わりに入れるホモグラフト(弁の移植)が入手困難なため子どもや重症感染症がらみなど特殊な患者さんに限られます。結局人工弁の選択については大動脈弁の場合にも機械弁と生体弁の2つがあり、通常はこの中から選ぶ必要があります。 (機械弁と生体弁の比較につきましては僧帽弁の項をご覧ください)
Q: ステントレス弁はどういう利点があるのですか?
なお大動脈弁の生体弁にはステントと言われる台座に弁を縫いつけたステント弁と、ステントという台座がない弁(ステントレス弁)があります(弁膜症症例9)。ステントレス弁の方が弁としては高性能で、とくにもとの弁が小さい時に威力を発揮します。最近の北米での検討でもステントレス弁の方が心臓の回復が良く、術後長期の成績も良いようです。ただしステント弁も進化し、その差は縮まっているという報告も増えています。
私共の経験でもステントレス弁はステント弁より1ないし2サイズ大きい弁が入り、心臓の調子も良好です。弁の寿命はステント弁よりやや良さそうな印象ですがまだ明らかではありません。手術はステントレス弁の方が難しく、ステント弁なら眼をつぶってでもできるような熟練した外科医にのみ、ステントレス弁が安全確実に手術できると思います。私はトロントでステントレス弁が開発された頃(1987年)からの経験蓄積があり、普通の弁と大差ないスピードで手術ができるため、患者さんへの負担は軽く良好な成績を得ています(累計30例以上で死亡や大きな問題なし)。
Q: 大動脈の基部(根っこの部分)の病気にはどういう手術があるのですか?
大動脈基部手術ではベンタール手術(ベントール手術)と基部再建をその患者さんの状態に応じて使いわけています(弁膜症症例10)。
大動脈基部の構造(左図)のうち、弁尖以外は手術にて再建が可能です。
弁尖もさまざまな工夫はできますが、まだ長期の安定性が不明な面もあり、さらに検討が必要です。
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なお大動脈弁輪や基部が小さいとき(いわゆる狭小弁輪)、左図のようなニックス手術やマノージャン手術などの大動脈基部拡大術を併用し、十分なサイズの弁が入るようにします。
最近は小さくても高性能な人工弁が増え、これら基部拡大手術は以前ほどはやらなくてすむようになりましたが、現在でもときおり、これなしでは手術が成り立たないということもあり、安全のために重要なバックアップ法(セーフティネット)と位置づけています。
基部再建手術(いわゆるデービッド手術やヤコブ手術)では長期間少なくとも10年以上は大丈夫と考えられる症例に施行しています。
10年持たないと考えられる患者さんにはベントール手術(ベンタール手術)を行いますが、
60歳以上の患者さんには相談の上、ステントレス生
体弁を用いてミニルート手術(別名インクルージョン手術つまり「入れ子」(写真左)のように内装して包み込みます)を施行しています。
これはベントール手術と同じ効果を単純弁置換の安全さで行えるという利点と、万一将来再手術が必要になってもそれが安全に行いやすいこと、そしてちょくちょく報告されている弁破裂が予防できるという大きなメリットを併せ持つ方法です。
私たちは基部再建の適応ある患者さんなら80歳代の方にも手術を安全に行っています(弁膜症症例9)。
Q: 大動脈炎症候群で大動脈弁閉鎖不全症等になっているときも手術できるのですか?
手術は十分できます。ただし大動脈炎の患者さんでは大動脈が炎症によって壊れる傾向があり、弁置換手術ひとつを例にとっても、通常どおりの形で人工弁を弁輪(もとの弁の付け根の部分です)に縫いつけるだけでは、後日、手術で縫った場所がちぎれるなどの可能性があります。
そこでさまざまな補強法が内外で報告されてきました。私たちもこの問題に取り組み、こうしたケースでは人工弁を二重に縫いつけたり、人工弁と患者さんの弁輪の間に心膜フェルトを介在させることでたとえ大動脈炎で弁輪が少々壊れても、心膜が全体の崩壊を防ぐようにしています。また炎症を起こしている大動脈をなるべく残さないように、ベンタール手術のような大動脈基部置換術や、場合によっては大動脈弁輪再建術なども加えます。
なお大動脈炎を抑えるためにステロイドを服用しておられる患者さんでは感染に弱く治りも遅いため、一層の注意が必要です。






