心筋症・心不全
心筋症には虚血性と特発性(拡張型心筋症など)があります。虚血性心筋症については虚血性心疾患の項をご参照下さい。ここでは主に虚血性でない拡張型心筋症の手術・治療について述べます。
Q: 「心筋症」とはどういう病気ですか?
A: 心臓の筋肉(心筋と言います)が壊れて動きが落ちる病気です。拡張型心筋症では心筋 が壊れて心室の壁が薄くなったり硬くなったりします。
Q: 「虚血性心筋症」の「虚血」とは?
A: 心臓に血液を送る冠動脈(左図)が狭窄(狭くなる)したり閉塞して心筋がやられる状態を言います。
虚血性心筋症の多くは心筋梗塞後に起こります。
Q: 「拡張型」とはどういうものですか?
A: 心臓とくに左心室(左室と略します)が大きくなる状態です。
左室の壁は薄くなることが多いです。
Q: 拡張型心筋症に対するバチスタ手術とはどんな手術ですか?
A: 拡張型心筋症は内科治療での予後(お薬で治療する場合の長期生存率)が厳しいにも拘わらず長い間、効果的な手術法がありませんでした。ところが1990年代にブラジルのバチスタ先生が心臓の一部を切り取って小さくすることで元気な心臓に戻るという、有名な「バチスタ手術」を開発・発表されてから拡張型心筋症は手術治療の対象になりました。しかしバチスタ手術 (正式には左室部分切除術 partial left ventriculectomy と呼びPLVと略します)では効果が一定ではなく、予測がつきにくいという問題のため、まもなく廃れてしまいました。アメリカでは現在、バチスタ手術 はほとんど行われていない状況です。日本では須磨久善先生がこの手術を導入・改良されバチスタ手術は一定の評価を受けるようになりましたが積極的に取り組んでいるのはごく一部の施設のみと言われています。 
Q: バチスタ手術の改良型とは?
A: 私どもはそうした先人のお仕事を活かすべく須磨先生やTorrent-Guasp先生(左写真)はじめ欧米の先 生方と連携を図りつつ、臨床検討のみならず動物実験で拡張型心筋症を作って、このバチ スタ手術の改良に取り組んで来ました。
そしてこれまでのバチスタ手術より数段安定し優れた成績を出すバチスタ手術 (改良型あるいは変法)の開発に成功し2002年のアメリカ胸部外科学会でこれを発表しました(下図)(拡張型心筋症・症例1、拡張型心筋症・症例2)。
この方法では左室の心尖部、つまり左室の先端部分を切除せずに温存します。心尖部が心臓構造の中で重要な要の役割をもっているというTorrent-Guasp先生のライフワークを手術に応用しました。
左で左端と右上の図は心尖部を切除する従来のバチスタ手術の絵です。クリーブランドの先生方が報告されたときの絵です。右下は心尖部を守る、私達の方法を示します。
この術式を既に13人の患者さんに使用し、これまでほぼ全員元気にされています(複数の左室形成術とその他手
術を要した超重症の高齢患者さん一人を例外として)。
心臓移植はドナーの不足のためにあまりチャンスがありませんので、バチスタ手術 (改良型)はこれから多くの患者さんたちの命を救うものと期待されています。ヨーロッパの一部でもバチスタ手術を見直す気運が生まれています。とくに60歳を超える患者さんの場合は移植の適応からも外れ補助循環(人工心臓)のリスクも高くなるため、一層バチスタ手術の意義は大きいと考えています。
Q: バチスタ手術以外の左室形成術にはどういうものがあるのですか?
A: 拡張型心筋症のうち、バチスタ手術で治す場所(左室側壁)とは違う場所(心室中隔)がやられている患者さんには上記セーブ手術 (SAVE手術)を行い、良い成績を上げていま
す。たとえば駆出率が20%を割る患者さんでも、状況によっては駆出率10%前後の方でもこれまで多数の患者さんを救命した実績を持っています。重症でも待機手術の患者さんでは約90%の成功率を出しています(拡張型心筋症・症例3)。小さなこどもの患者さんでもこの方法は威力を発揮しています(拡張型心筋症・症例4) 。
これらの他にオーバーラップ手術 (Overlap手術)という左室前側壁を左室内に引き込み心室中隔にオーバーラップさせる方法もあり、弱点もありますが適材適所の考えで活用しています(4.虚血性心疾患の項をご参照下さい)。
ドール手術 (Dor手術)も病気の場所ややり方によっては有用なことがよくあります。
さらに僧帽弁輪形成術を併用することで左室基部のパワーアップが図れることを動物で証明し、患者さんにも積極的に活用しています。加えて両室ペーシング (CRTと略します) というペースメーカーの発展型が効果を出す患者さんには内科と協力して積極使用しています(ドール手術や両室ペーシングにつきましては 4.虚血性心疾患の項をご参照下さい)。
複合左室形成手術の一例です。
当時めずらしい手術として新聞などで報道されました。手術前はショック(血圧が十分出ない)で危険な状態でしたが、5年以上たつ現在もお元気です
。バチスタ手術変法(左室側壁に)とセーブ手術(心室中隔に)の位置関係がわかります。
Q: サルコイドーシスの心臓や左室緻密化障害にも左室形成手術が役立つことがあるのですか?
A: 拡張型心筋症の原因にはさまざまな疾患があります。たとえばサルコイドーシスという病気が心臓におよべば(心サルコイド)、拡張型心筋症になることが少なからずあり、この病気の特徴を考えてケースバイケースの手術を施行しています(拡張型心筋症・症例5、拡張型心筋症・症例6)。
あるいは左室緻密化障害 という病気は生まれたときからの病気でそれが悪化して拡張型
心筋症になることがしばしばあります。左室緻密化障害の場合は心筋が緻密な状態に育たないため隙間が多く、そこで血栓が発生して脳梗塞などを起したり、心臓の力が出ずに心不全になるという大きな問題があります。これらを考慮した左室形成術を行いアメリカのジャーナルで報告しました。左室緻密化障害に対する左室形成術としては世界初のメジャージャーナル報告とのことで、血栓・塞栓と心不全の両方を予防するよう工夫しています。(拡張型心筋症・症例7)。
Q: 拡張型心筋症に対する左室形成手術を成功させるためには?
A: 要は拡張型心筋症では心臓の中で一番悪い場所を取る(あるいは形成する)ことで心臓を適正に縮小し、残った心筋(心臓の筋肉)のパワーを最大限に引き上げようというわけです。左室の拡張が強くない患者さんではその効果は限られますが、そうした患者さんでも左室の悪い部分と良い部分の差が明確なときには効果があり、手術前に細部まで検討しよく見極めることが重要です。手術のあと心臓は良くなっても全身の体力があと一歩足りずに助けれなかった残念な経験が少なからずあります。そのかなりの部分は手術前に肝臓や腎臓がやられていた人、急激に状態が悪化して緊急手術になった方、あるいは手術前から気管支ぜんそくなどのためにステロイド剤が必要だった方などが多く、もう一歩手前で手術できれば助けられたのにと、悔やまれるケースが少なくありません。患者さんの方でもどんどん質問して戴き、心臓(循環器)内科の先生や私たちに早めにご相談戴ければ幸いです。
しかし一旦手術を乗り切れば心臓も全身もかなり良くなることが多いため、その改善した心臓を長く守るため効果あるお薬(ACE阻害剤、ARB、β―ブロッカー、などなど)を研究し使いこなしています。近い将来には再生医学の方法(細胞移植、血管新生とくに遺伝子もベクターも使わない安全なたん白徐放剤で)も併用して心臓をさらにサポートする予定で、すでに動物実験では良い成績を出しています。安全性が証明され認可が下りたものから順次臨床に上げており2006年の段階で一部臨床試験を開始しています。豊橋ハートセンターや大和成和病院では病院の都合よりも患者さんの都合を優先する柔軟な運営ができ、待ち時間も数段短いためより成績の向上が期待されます。



