虚血性心疾患 (狭心症や心筋こうそくなど)
Q: 虚血性心疾患とはどういう病気ですか?
この病気は冠動脈(図)の動脈硬化により冠動脈がせまくなったり閉塞することで起こります。ライフスタイルの欧米化とともに増加し、死亡原因のトップレベルを占めるように
なりました。
リスクファクター(病気の原因、たとえば糖尿病や高血圧、喫煙、高脂血症、家族歴や最近注目されているメタボリック症候群など)をうまく押さえ込んで予防するのが一番なのです。
しかし病気が進んでくると命にかかわるため治療が必要になります。治療はできるだけ 内科治療(生活・食事・運動指導やお薬、あるいはカテーテルという「くだ」や「風船」「ステント」を使います)をするのですが、内科治療では助からない状態になりますと手術が必要です。
慢性腎不全・血液透析の患者さんの場合は病気の進行が早い傾向がありますので注意が必要です。
Q: 狭心症にはどういう手術があるのですか?
狭心症(胸や腕の内側などが締め付けるように痛みます)の患者さんには冠動脈バイパス手術(ACバイパス手術、CABG)という手術を行います。
これは胸の中にある内胸動脈(ないきょうどうみゃく)やお腹の上端内側にある胃大網動脈(いたいもうどうみゃく)という動脈や腕にあるとう骨動脈あるいは下肢にある静脈をもちいます。これらを組み合わせて心臓に血液(酸素や栄養を含みます)を送る冠状動脈にバイパスを作り、心臓に血液を送る手術です。
内科のカテーテル治療が進化し薬剤溶出性ステント(略称DES)という優れた治療法が使える現在も、バイパス手術の利点はたくさんあります。
バイパス手術はこの10年ほどの間に大半が体外循環(人工心肺)を使わない
オフポンプバイパス(OPCAB オプキャブ)手術
に進化し、安全性がさらに向上しました。
バイパス手術にもちいる内胸動脈グラフトはとくに動脈硬化になりにくいため、糖尿病や慢性腎不全・血液透析の患者さんの予後を改善するのに役立つことが知られています。私たちの経験でもたとえば10年以上の血液透析で冠動脈がガチガチに硬化・石灰化していても内胸動脈は柔らかい良い状態であることが確認できています。
Q: 薬剤溶出性ステント(DES)は万能なのですか?
DESでは強い抗血小板薬を長期間飲む必要があり、飲まなければ突然死するケースが少なくなく、患者さんも必ずしも元気にはなり切れません。欧米ではDESは従来のステントより長期の死亡率が高いことが判明し、すでにDESは反省期に入っています。さらにDES治療を受けたあと、たまたま胃腸や肺のがんが発見され、抗血小板剤のために手術ができずに困ったというケースを聞くことがあります。
バイパス術後の患者さんは、他に病気がなければ普通の生活ができる人が多いです。薬を飲めなくなっても安全性はDESの場合ほど損なわれません。ステントとバイパス手術のうまい使い分けが大切と考えます。
Q: 冠動脈バイパス手術の安全性はどのくらいですか?
私たちの手術死亡率は1%を下回ります。90歳前後の高齢の方や、いろんな病気(腎不全・血液透析やCOPDなどの肺の病気あるいは脳卒中など)を持った重症の方、危険な状態で緊急手術を必要とする方にも、医学的に手術が必要な方には逃げることなく、どしどしACバイパス手術を行っています。こうした重症の患者さんを含めても低い死亡率を達成できています。
ただこれまでのように7年間死亡ゼロなどという状況から少し変化があり、前任地の京大病院で最近の1-2年で助けられなかった患者さんがあったのは、再生医療しか手がない患者さん(以前から心臓以外の重い病気がありました)や再生医療のため来院され、その再生医療さえ適応にならなかった重症患者さんであり、普通の患者さんは全員うまく行っています。
とくに慢性腎不全で慢性血液透析を受けている患者さんでも安全性は維持できています。
透析歴30年の患者さんの手術経験もあり、冠動脈は石灰化でカチカチになっていましたが、内胸動脈グラフトはきれいで、それを工夫して吻合(縫い付ける)し成功しました(写真左)。
術中高速エコーで吻合部を見ますと(写真左下)石灰化で輝度の高い冠動脈と比較的正常の内胸動脈が
映っていました。
CABGの低い死亡率の原因として
1. 熟練したプロフェッショナルチームによる手術、
2. 人工心肺(人工の心臓と肺で普通の心臓手術で はこれを使います)を使わないオフポンプACバイパス手術
(略称OPCABオプキャブ)の積極的かつ正しい使用 (虚血性心疾患・症例1)、
3. 手術前、手術中、手術後の徹底した安全管理
などがあげられます。 名古屋ハートセンター・豊橋ハートセンターと大和成和病院では上記の2.はもちろん、1.と3.が一段と強化され、安全安心の医療にさらに近づいています。「心臓いのち」のプロのチームならではのことと思います。
Q: オフポンプバイパス手術は心筋に埋もれた冠動脈には弱いと聞きましたが
そうとは限りません。必要があればさまざまな工夫をして心筋内に冠動脈を探しあて、掘って捕まえてバイパスをつけることができます。私たちは経験と高速エコーの両方をもちいて心筋内冠動脈に確実にバイパスをつけるようにしています。
写真上左は心筋内深くに埋もれた冠動脈を確認した像で、写真上中は冠動脈を掘りあて捕捉したところです。写真上右はそれを証明する画像です。
Q: 狭心症が悪化して心筋梗塞になってしまってからでも手術はできるのですか?
すでに心筋梗塞になってしまわれた患者さんには、その失われた心筋(心臓の筋肉)を元に 戻すことは現在のところ不可能(近い将来には再生医療にて可能となるでしょう)ですが、残った心筋をフルに効果的に活躍させることで心臓の力を高めることは可能です。
たとえば左室瘤(心筋こうそくにやられた場所がこぶのように膨らんでしまいます)や虚血性心筋症(左心室全体の動きが悪くなります)には左室形成手術(LVRと略します)が役に立ちます。
左室形成術では左室の特に悪い部分を小さく縫い縮め、形を整えて、残った部分のパワーを上げようというわけです。
私達は左室形成術を通算で100名以上の患者さんに行い、手術前に心臓も全身も衰弱しておられた超重症の患者さんを除けば多くは救命できています。
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Q: 虚血性心筋症にたいする左室形成手術にはどういうものがあるのですか?ペースメーカーも役立つのですか?
現在、こうした超重症の方を助けるべく、一般的なドール手術(Dor手術)(虚血性心疾患・症例2)を改良したセーブ手術(SAVE手術)(虚血性心疾患・症例3)(心臓の形を自然できれいに保ち、傷んだ部分を十分に修復し心臓の力が最大限に発揮できます)やバチスタ手術(変法)(改良バチスタ手術とも呼んでいます、心臓の先端部分を温存し自然の構造を守るのが特長です。
心筋症のページをご参照ください)を用いてさらに良い成績を上げつつあります。
また左室形成術に加えて両室ペーシング(CRTと略します)という方法を併用することで一層術後の心機能を改善させています(虚血性心疾患・症例4)。
心臓や全身の状態にもよりますが、心臓移植しかない(しかし年齢等の制約で移植ができない)と言われていた患者さんがこれらの手術で元気になられたというケースが多数あります。
セーブ手術と改良バチスタ手術は左室を修復する場所におうじてきれいに使い分けています。適応があれば80歳代のご高齢の方にも左室形成術を行い元気になって戴いています(虚血性心疾患症例5)。
なおオーバーラップ手術(Overlap手術)(虚血性心疾患・症例6)という手術も行うことはありますが、効果が左室の根っこ部分にはあまり効かずかつ病変部を残すため長持ちしない心配が強く、動物実験でもあるていどそれを確認しているため、通常は用いていません。
心不全・心筋症に対する左室形成手術では他病院からも手術依頼があり、それに応えていますし、近隣地域はもとより遠方の移動できない重症患者さんのために出張して手術した実績も多数あります。
Q: 心筋梗塞のあと、心臓が破れたり中の壁に穴が開いても手術できるのでしょうか?
ブローアウト型
私たちは新しい術式を工夫して、ブローアウト型で破裂した心臓を防護する手術をすでに5名の患者さんに行い、良い成績を上げています。
もう少し穏やかな破裂(ウージング型 左室破裂)では手術用の糊(のり)で心臓の表面を安定化することで治せます。
心室中隔穿孔(VSP)は私たちが1980年代の終わりごろトロントから発表した術式(心筋梗塞部除外法、虚血性心疾患・症例7)が世界中で用いられており、本家本元の誇りをもってこの原法をさらに改良して優れた成績を上げています。
現在パッチの材質や形を工夫し、毒性のある糊を使わず、また2枚のパッチを弁状に活用して弱い心筋を守りつつ修復するようにしています。
今後のさらなる展開が期待される領域です。
内科の先生方のご協力を得て、急いで治せる病院へ搬送して戴く必要があります。
心筋梗塞の後、まもない頃には心臓とくに左心室が破裂
(左室破裂)したり隣の右心室という部屋に穴がつながったり(心室中隔穿孔VSP)することがあります。
とくに左室破裂は重症で、なかでも血液が噴出するタイプ(
左室破裂)では あっという間に死んでしまいます。



