大動脈疾患

Q: 手術が必要な大動脈の病気にはどういうものがあるのですか?

A: 真性大動脈瘤と大動脈解離(別名解離性大動脈瘤)があります

真性大動脈瘤(りゅう)は大動脈の壁が弱くなり膨らんでこぶのようになる病気で、近年増加の傾向にある病気群です。
瘤が破れるとほとんど即死になってしまいますし、血栓などが瘤の中にできてそれが血管を塞いでしまうとその臓器に大きな問題が起こります。 たとえば脳ならば脳梗塞が起こり命にかかわる事態となることも少なくありません。

Q: 大動脈解離とはどういう病気ですか?

大動脈解離は大動脈の壁が内外に裂ける病気で、大変強い痛みが背中や胸に走ります。 Photo 昔、石原裕次郎さん、最近加藤茶さんが手術を受けたことで有名になった病気で、おおざっぱに2種類あります。 そのうちスタンフォードA型(左図の左側、心臓に近い部位が解離します)では手術が必要です。 手術しないと発症2日間で約半数の患者さんが亡くなる重い病気です。

スタンフォードB型(左図の右側)は通常は手術ではなく点滴やお薬などで血圧等を調整しながら治します。ただし破裂しそうなときなどには手術が必要となります。

まず真性大動脈瘤からお話します。

Q: 真性胸部大動脈瘤にはどういうものがあるのですか?

胸部真性大動脈瘤は大きく3つに分けられます。 上行大動脈瘤、弓部大動脈瘤、下行大動脈瘤です。 それらはしばしば合併し、たとえば下図左は上行弓部大動脈瘤、下図右は遠位弓部下行大動脈瘤です。胸部大動脈瘤の場合は一般には瘤の直径が6cmに達すると急に破Photo_7 裂する可 能性が高まるため手術が必要になります。 ただしマルファン症候群など結合組織が弱くなる病気の患者さんはそれより小さな、たとえば直径5cmでも手術が勧められることがよくあります。直径5cmで破裂したというケースが過去にかなりあるからです。 手遅れにならないようにするためにはCT検査による定期検診が大変役に立ちますし、患者さんの苦痛もほとんどありません。

いずれも人工血管を用いて瘤の部分を置換し、破裂の心配を無くすのですが、心臓や脳の保護をやらないと血管を一時遮断できないため様々な工夫をします。 上行大動脈に限局している場合は体外循環のもと、大動脈を遮断して遮断部と心臓との間を人工血管で置き換えます。 しかし瘤が上行大動脈の遠位部に達しているときは、通常は体外循環を用いて体温を下げ(体はある種の冬眠状態となって守られやすくなります)、一時的に血流を止めるか何らかのルートから血液を流して脳や心臓を守りつつ人工血管を縫い付けるか、脳への血流を確保しておいてそれほど温度を下げず人工血管を取り付けて行くなどします。 上行大動脈瘤は身体の前から、下行大動脈瘤では左横から入ります。 弓部大動脈瘤は状況に応じてさまざまな方向からアプローチします。

Q: とくに弓部大動脈瘤の手術について、どのように行うのですか?

胸部大動脈瘤の中でも弓部大動脈瘤は比較的大きな手術が必要です(左図、弓部大動脈全置換Photo_3手術)。 私たちは弓部大動脈瘤に対して脳こうそくの予防や脊髄の保護にとくに力を入れArch First (アーチファースト)テクニックという方法を主に用いて良好な成績を出しています。 こうした研究の中からステップワイズ・アーチファースト法という確実な大動脈再建方法を工夫しておこなっています(症例1)。脳こうそく等のリスクが比較的低いケースでは選択的脳灌流という方法をもちいて、やや高めの温度で、より止血に有利な方法で手術します。

左図は下行大動脈のより遠位部(お腹側)に瘤が広がっているときの方法のひとつです。象の鼻のような人工血管をつけPhoto_5るためエレファントトランクと呼びます。そのままで安定することも多いのですが、後日遠位部にさらに治療を加えることもあります。

これらの大動脈瘤の患者さんは手術せずにほうっておけば早晩瘤が破裂することが知られており、いったん破裂してそのままにしておくと死亡率は100%となるため、かなり重症でも様々な工夫を重ねて、できるだけ安全性を高めて手術をしています。

大動脈解離のなかで上行大動脈がやられるA型解離の場合、殆どは緊急手術となり、上行 Photo_4大動脈ないし弓部大動脈を人工血管で置換します。 左図は急性大動脈解離によく使う方法で近位弓部大動脈置換手術(ヘミアーチ置換)といいます。

脳と心臓をうまく守りつつ手術を進めて行くのは真性大動脈瘤の場合と同じです。 大動脈解離の場合は組織が脆弱なため、より丁寧な手術操作を行います(症例2)。

大動脈の基部(根元の部分つまり大動脈弁に近い場所)が解離するとしばしば大動脈弁閉鎖不全症が起こります。これもあって緊急手術が必要になります。 解離によっておこる弁閉鎖不全は一般に大動脈弁形成手術ができる場合が多く、これによって患者さんへの体力的負担も少なくなります。 京大病院では米田着任以来、大動脈解離の患者さんを20名以上のほぼ全員救命できており一層の治療法の改善につとめています。 手術前に心臓が停止した一例は残念ながら救命できませんでしたが、あと半時間早く手術室へ搬送できれば多分救命できたであろうという反省からより態勢を磨く努力をしています。

下行大動脈がやられるB型解離の場合は内科によるお薬その他の穏やかな治療が勧められますが、次第に拡張して瘤になると破れるまでに手術が必要となります。 破れる前なら手術の成功率は高いですが、いったん破れてしまうと全身の状態が急速に悪化するため、手術までに死亡したり、手術を乗り切る体力がなくなってしまうという困ったことになります。

Q: ステントグラフトはどのように役立っているのですか?

循環器内科の先生方と協力してステントグラフト治療も威力を発揮しつつあります。 この方法はいわゆる手術をすることなく、カテーテルという管(くだ)を使って折りたたんだ人工血管を動脈の内側で広げて固定するもので、高齢者や他疾患を持った重症患者さんではとくにメリットが大きいものです。 まだまだ改良の余地はあるのですが、体力が無く手術に耐えられない患者さんなどで成果を上げています。

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上記のステントグラフトで下行大動脈瘤が安定しない場合、二期工事としてカテーテルで血管の内側から瘤を治し、エレファントトランクを安定させることが増えました。ステントグラフトができない形・状況の場合は二期手術で治療を完成させることもあります。

Q: 大動脈のハイブリッド治療の実例をしめしてください

ステントグラフトは比較的あたらしい治療法ですが、近年さまざまな展開があります。たとえば手術単独でもステントグラフト単独でも治せない、あるいは危険性が高すぎる末期重症患者さんとくに胸腹部大動脈瘤なかでも破裂性のものに対して、外科手術とステントグラフトを組み合わせたハイブリッド治療を開始しました。 これまで6人の絶体絶命、超重症の患者さんをいずれも生還させています。 今後の強力な救命手段になるでしょう(症例3)。 またハイブリッド治療は胸部大動脈瘤でも活躍することが増え、たとえば上記のようにエレファントトランクの安定化に活用することもありますし、胸部大動脈を全部取り替える必要がある患者さんでは体の前からアプローチし、上行大動脈と弓部大動脈を人工血管で治し、下行大動脈以下はステントグラフトで治すことで手術とステントグラフトの特長を活かすようにしています。 患者さんにとっては傷も小さくなり体の負担も軽くなって喜ばれています。

Q: 大動脈瘤や大動脈解離の患者さんを救命するために大切なことは?

大動脈瘤や解離が破裂して、病院へ来るまでにすでに血圧が出なくなり、つまりすでにお亡くなりになっていた患者さんもあり、内科や開業医の先生方とさらに連携を強めて、「生きているうちに手術室へ行こう、そうすれば勝ち目は十分」という啓蒙活動を行っています。とくに急性大動脈解離は時間単位で患者さんがお亡くなりになるため、タイミングを逃さず診断し緊急手術することで患者さんを救命できます。

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